1.
翌日、何とかいつも通り登校したアイリスだったが、当然上の空で担任が話している言葉でさえ聞いていなかった。入って来た教師の顔色はやはり最悪で、それでもエルバートの言った通り、自分が出席している事をそれとなく確認していたからクラスの生徒が減っていくのは堪えられないのだろう。
担任の話を聞いていないと気付かれたのか、斜め前に座るイザイアがこちらを向いた。前の奴が後ろを向くと目立つから止めて欲しい。
「昨日、大丈夫だったか?」
「・・・まぁ、なんとか・・・」
実際、昨日の光景は目に焼き付いて消えないし、何よりシャールカはもう死んでしまったのだと認めてしまえば気の重さは昨日の比では無い。つまりまったく大丈夫などではないが、見栄を張って大丈夫などと言ったのである。
イザイアが苦い笑みを浮かべる。
「俺には全然大丈夫そうに見えねぇけど・・・」
「そういえば、悪かったね。昨日はさっさと逃げてしまって」
会話に割り込んで来たのはそれまで傍観を決め込んでいたハンスである。彼は斜め後ろの席なので、今度はアイリスが後ろを向く事になった。
「別に・・・まあ、私もあの場で同じ状況だったら間違い無くそうしただろうし」
「うん。君はそう言ってくれると思っていたよ。ああ、そうだ。結局、フェリクスはあの場に残ったのかな?僕達の後は着いて来てなかったから、残ったんだと思ってるんだけど」
「フェリクスは残って私より怒られてたよ。人間の道徳的な面からね」
「ああ、やっぱり彼は面白いね。進んで関わりたいとは――思わないけど」
まったくだぜ、とイザイアが同調する。
けれど、ハンスの顔は思った以上に真剣だった。真剣に、フェリクスとは関わり合いになりたくないなどと宣ったのである。イザイアの冗談めいた笑みの影も見えないから、きっとハンスのこれは忠告だ。
「つーか、随分とうちのクラスも寂しくなったよな。日に日に担任の顔色も悪化してくしさ」
「当然だね。デュドネ先生は今時見ない、クラス思いのそれなりに熱血――な先生なんだからさ」
「ハンスさ、それ、言い方がすごく皮肉っぽいよ」
「当然だろう?」
やはり転校生はどこか胡散臭い笑みを浮かべ、まだ話している担任の姿を見る。
「優しさでああもやつれるなら、僕はそうなりたくはないな」
その目――彼の目は本当にデュドネを見ていただろうか。
彼の中に別の人間を見ていないだろうか?それだけが、この教室で起こった出来事の気掛かりだったが、程なくしてアイリスのその記憶は一瞬で吹っ飛ぶ事となる。