10.
やっと説教が終わったのか、腕を掴まれる。
「さぁ、立て。授業はもう始まって――」
そう言ってアイリスの顔を覗き込んだエルバートの動きがはた、と止まった。そうしてゆっくりと手を離し、再び屈み込んだアイリスの視線に自分のそれを合わせる。
「・・・随分と顔色が悪いな。歩けるか?」
「センセ〜、俺、運びますけど」
「・・・いやお前まだいたのか。授業に戻れ」
「今から行ったら遅刻切られるんですけど〜」
「欠席するよりマシだ!」
フェリクスのあまりの図々しさに一瞬だけ体調が回復した。いや、正確に言うなら呆れるあまり具合が悪い事を一瞬だけ忘れた。
「仕方ないな。君は午後の授業は休んでいい。デュドネにも俺が伝えよう。寮へ帰って休め。明日の授業は休んではならない」
「・・・はーい」
「ほら、立て」
腕を肩に回され、ほとんど体重を預ける形で一応は立ち上がる。驚く程全身に力が入らず、この他クラスの担任には多大な迷惑を掛けている事だろう。少しだけ顔を上げると、まだフェリクスがこちらを黙って見ていた。
その顔に――反省の色も、後悔の色も無い。ただ純粋にこの光景を観察している者の目だった。
「――君に言うべき事ではないのかもしれないが、デュドネはクラス思いだ。あまり心配を掛けると、今後の会議に影響する。明日は無事が伝えられるよう、出来る限りの努力をしてくれ。そうでなくともクラスCはかなり生徒が減っているからな」
「エルバート先生は・・・意外と優しいんですね。放置されるかと思ってました」
「成る程、置いて行かれたいのか」
「・・・何か大丈夫そーだね〜。じゃあ俺は授業行って来るから〜。じゃーねー、アイリス」
それだけ言ってフェリクスが瞬時に踵を返す。エルバートの溜息がすぐ隣で聞こえた。
***
『○月×日 晴れ 2日目
シャールカの死亡現場へ行って来た。行かなければよかった。
予想以上に生々しかったから。
追記
あの時にもっと警戒していれば、出来レースみたいな事にはならなかったのかもしれない。
信じられるのは自分だけ。他人が何をどう思って、どうしたいのかは私には分からないのだから。』