8.
シャールカのある部屋の外に到着した。ハンスの提案により、窓から部屋の惨状を見る事にしたのだ。部屋のドアはどうせ鍵を掛けられている。ただし、窓の鍵は開いているし、カーテン掛けられているが窓を開けてカーテンを端に寄せれば問題無いだろう。
この中では一番シャールカの死因に興味があるらしいハンスが一番乗り。言い出しっぺのフェリクスはアイリスの付き添いという事になっているので率先して覗き込むような事はしない。
「・・・これは――」
背伸びして部屋を覗き見たハンスの眉間に皺が寄る。嫌悪と言うより予想外、の色が濃い。何か想像していなかった事でも起きたのだろうか。
続いて、イザイアとフェリクスが同時に部屋を覗き込んだ。その間に窓から離れたハンスが隣にやって来て呟く。
「見ない方がいいかもしれないね」
「え?それって――」
意味を問い正すより早く、腕をぎゅっと掴まれて我に返る。反射的に振り払おうとしたが、その手の主がフェリクスである事に気付き、力が抜けた。
けれど、抜けた力の全ては表情筋に注がれたかのように一瞬で顔が強張る。
「さ〜、行こうよ。早く逃げないと、先生来ちゃうかもしれないし〜」
ぐいぐい、と窓まで引っ張られる。見ない方がいい、と言われた手前、躊躇ってしまうアイリスになどお構いなしだ。いや、分かっているからこそこの腕を引いているのかもしれない。
フェリクスの目的は、危機感が薄い親友のそれを煽る事なのだから。
けれど、窓の前まで引き摺られてしまったアイリスは結局、好奇心に勝てなかった。見てはいけないもの程、見てみたくなる。忌むべき人間の性なのかもしれない。
そーっとシャールカの部屋を覗き込む――
「うっ・・・!?」
それは映画で言う『スプラッタ』が可愛らしく感じる程の惨状だった。いや、正確に言うならば映画のそれとは変わらない状態であったが、それを生で見るのは話が違った。画面越しではなく、肉眼で見た光景は予想以上に衝撃が強いものだったのだ。
室内はどうやらまったく片付けの手が入っていないようだった。
荒らされた部屋はつまり、両者が争った証しである。椅子が床に倒れている。しかも、その椅子を掴んでいた腕が椅子を握りしめた状態のまま、胴体から離れ、転がっている。
侵入者相手に椅子で応戦したのは火を見るよりも明らかだ。
その片腕のない胴体はと言うと、椅子からやや離れた位置に転がっていた。ただし、床ではなく机の上に腰から上だけが乗っかっていたのだ。思い切り跳ね飛ばされたのか、壁にぶつかった赤い血の形跡が生々しい。
腰から下はベッドの下から足らしきものが覗いているので、多分それだ。
真っ赤な室内に、何故か瑞々しい果物が転がっていると思えば臓器の類だし、これはもしかするとスプラッタどころの話じゃないのかもしれない。
「う・・・うぅっ・・・」
「アイリス〜?大丈夫?」
「大丈夫じゃない・・・・」
胃の中の物をまとめて吐き出しそうだ。これ、昼食を食べてから来たのはむしろ間違いだったんじゃないだろうか。けれど、このまま食堂へ帰っても何も食べられる気はしないが。