2日目

5.



 本気なのは分かったが、どうしていきなりそんな事を言い出したのだろうか。フェリクスにとってシャールカは友達の友達であり、つまりは赤の他人。それでも、自分と一緒に現場を覗きに行けば共犯扱いである。先生に見つかった時、こっぴどく叱られる事だろう。
 けれど、彼の口ぶりからして絶対に着いて来るだろうし、というか企画した本人が後は好きにどうぞ、というのも不自然である。

「いいの?Bランチ、食べられないかもしれないよ?」
「いいよ〜。それより、アイリスの危機感を煽る方が優先かな〜、って」
「危機感・・・?すっごく危機感あるんだけど」
「無いよ」

 思いの外強い口調で言われて次の言葉が喉の奥に封じ込まれた。畳み掛けるように親友は言葉を続ける。

「だってさ〜、ドッキリだったらいいのに、とか言い出すんだよ?俺、アイリスの事が心配になってきちゃったなぁ。ちゃーんと現実見てもらわないと。そうじゃないと俺が毎晩毎晩、君の為に部屋に行かなきゃいけなくなっちゃうでしょ〜」
「何で毎晩来るのさ」
「俺以外の人が尋ねて来ても〜、絶対にドア開けないように、かな〜」

 口調が柔らかい――というか、強い言葉を使わないから分かり難いが、要約するとこうなる。
 ――アイリスには危機感がまったく足りないから、友達の死体でも見て危機感を煽りたい。
 とんでもない奴であるが、この口調と雰囲気のせいで大半がそれに騙される。けれど、冷静に考えてみると物騒極まりない事を宣っているし、シャールカの尊厳など一切考えの外である事が伺える。
 親友の壊れた思考回路に戦慄を覚える。前々からこういう傾向が無かったとは言えないが、特殊な状況で加速しているのは間違い無い。そういえば、シャールカはフェリクスの事をとても怖がっていた気がする。

「それで、どうするの〜?もちろん行くよね?」
「行く。行くけど――」

「なら、僕もご一緒させてもらおうかな」

 横合いから人が出て来た、と思ったら空いている席に腰掛ける。4人掛けのテーブルなので、何の抵抗もなく彼は会話の輪に加わった。

「あれ〜、君、あれだよね〜。この間来た、転校生」
「ああ。ハンスだ。よろしく」

 クラスメイトのハンスはそう言って胡散臭い笑みを浮かべた。フェリクスとハンス。彼等が並ぶと、何だかとてつもなく胡散臭くて恐い空間が出来上がる気がする。緩衝材は誰だ。ああ、私か。

「・・・ハンスも来るの?」
「ああ。僕もシャールカについては色々気になってて――まあ、物見遊山とも言うかな」
「それは言わないでいいよ・・・」
「僕も着いて行っていいだろ?ああ、邪魔だったかな?」

 ハンスの視線はフェリクスだけを見ている。どうやら、決定権はフェリクスにあるのだと早々に見抜いたらしい。

「全然構わないよ〜。人は多い方が楽しいからね〜」
「楽しむ為に行くんじゃないんだけど」
「ものは言いようでしょ」
「それはいいけど、先に昼を食べた方がいいね。スプラッタだったら、まず昼食は抜く事になるだろうから」

 そう言って――何故か、こちらに微笑みかけるハンス。その胡散臭い笑みが「君を気遣っているんだよ」、と言ってるようで早くもテンションが下がってきている。