1.
翌日。この日は朝からフェリクスが尋ねて来る事も無く、悠々と余裕の時間に学院へ入る。彼がいなければ優雅な朝が過ごせるのは少し前から薄々気付いていたが、昨日の今日なのでさすがのアイリスも苦笑せざるをえなかった。
それでも教室へ行く頃には大分遅い時間になっていた。学院に入ったからとは言え、まっすぐクラスへ向かう必要など無かったので購買などに寄り道していたのだ。
「席、結構空いてるなあ・・・」
教室へ入ってすぐの感想はそれである。立っている生徒が大半だが、クラスの人数から見積もっても来てない生徒が多すぎる気がする。
ふと、イザイアが近付いて来た。
「よ、アイリス。お前今日はシャールカより早いぜ」
「え?来てないの?」
「おう。お前と一緒に来るのかと思ってたけど・・・いないな」
「・・・」
嫌な予感。例えようのない感覚に背筋が凍る。そんな事はきっと無いと脳内ではそう思っているのに、制御出来ない第六感あたりがざわざわと騒いでいるような。
そうなんだ、と口では言いつつ落ち着かない。彼女は臆病な子なので、遅刻ギリギリに来る事は滅多にない。たまにあるとすればエラルドに捕まった時ぐらいで、それでも頻度はかなり少ないはずだ。
「そんな青い顔するなって。心配になんのは分かるけど、風邪とか引いたのかもしれねぇだろうが」
「そうだとしたらタイミングが神憑り過ぎてるよ・・・!」
「まったくだが、じゃあ他に――いや、案外ビビリ過ぎて寮から出て来れねーのかも」
「あ。それはあり得るわ」
「呼んで来た方がいいのか?でも――」
「その必要は無い。席に着きなさい」
すぐにでも走って確認しに行きそうなイザイア。それを諫めたのは朝礼には少し早いものの、担任のデュドネだった。
先生来ちゃったよ、と内心で舌打ちしながらも大人しく指示に従う。もう少し早ければイザイアがシャールカを呼びに行けたというのに。
そこでアイリスは初めて担任の顔を見た――見て、そして息を呑んだ。
顔が青い。酷く疲れているようで、目の下には濃い隈があるし、何より酷く悲しそうな顔をしている。
その朝から異常とも言えるデュドネの姿と、クラスメイトが席に着いた事で浮き彫りになった所々ある空席の関連性に気付かない程、アイリスは間抜けではなかった。
「・・・先に、出席を取る。こちらの名簿と人数が合わないと困るからな」
深く項垂れ、担任がそう言い放った。教室中が俄に騒がしくなる。