1日目

7.



 ぞろぞろ、と学生特有の気怠さを纏って教室に生徒が増え始める。その中に知った顔を見つけたと思った時は、向こうも同じくアイリス達に気付いていた。
 やぁ、と手を挙げた最近の転校生――ハンスが微笑む。実に胡散臭い笑みだが、それは最初からで慣れてしまえば苛立ちも何も感じなくなる。そんな彼の後ろにはお調子者のイザイア。一体何が面白かったのか、ニヤニヤと嗤っている。

「何の話をしているのかな?」
「えっと、さっきの、集会の話!ハンスくんはどう?やっぱり、恐い?」

 どうやら味方を増やしたいらしいシャールカの言葉にハンスは苦笑した。と言っても、それさえも作り物めいていてまったく信用ならないが。

「僕は恐くないかな。信憑性も低いし、ね?君はどう?イザイア」
「俺かよ。あー・・・俺はそうだな・・・ま、聞き流しときゃいいだろ!」
「ああ、君の馬鹿さはよく分かったよ。アイリスは――ああ、君は警戒心が強いから。きっとシャールカと同じ意見なんだろうね」

 まったくもってそうだったので、アイリスは黙ってハンスの言葉に頷いた。
 それにしても、今まで学院生活を送ってきたが、こうも訳の分からない話をされたのは初めてだ。

「やっぱり用心しておいた方がいいの?コレ」
「そうだね。イザイアみたいに受け流すのだけは良くないんじゃないか?」
「ハンス・・・お前って時々驚く程言葉に棘があるよな・・・」

 何だか気まずい沈黙が場を支配した。が、そのタイミングを見計らったかのように担任が教室へ入ってくる。

「よーし、席に着け!出席がとれないだろ」

 クラスC担任――デュドネ。優しい、だとか可愛い、だとかで女子に人気の教師だ。実に最底辺クラスに相応しい臨機応変さを持っていて、プライドに溺れない人でもある。
 デュドネの指示に従い、生徒達が席に着く。
 悲しそうな顔をした担任は暗い面持ちのまま口を開いた。

「今日の欠席者は――いない、な。朝の話を聞いて分かったと思うが、注意事項が幾つかある。よく聞いておいてくれ」

 言いながら、デュドネが小さなメモに視線を移す。

「――みんな寮生だから知っていると思うが、戸締まりはしっかりしろ。窓も開けちゃ駄目だぞ。あと、寮の部屋に他人を入れるな」

 寮の壁は厚い。というのも、部屋によっては魔法の詠唱練習をしている者がいたり、剣の素振りをやっている者もいる。壁が薄いとそういう音が聞こえてくるので、落ち着けないという声が上がり壁が厚くなったのだ。
 ――まさか、それが裏目に出るとは誰も思っていなかったようだが。

「そして、院内でも人が少ない場所には一人で行くな。いいな?」

 はーい、とやる気の無い返事。いったいこの場にいるどれだけの生徒が言いつけを全て守るのだろうか。
 しかし、デュドネはそれを注意したりなどしなかった。それどころか、かなり忙しいようで今やって来たと言うのにもう出て行く準備をしている。

「解散だ、授業が始まるまでは好きにしていていいぞ」