2.
「今日、臨時集会になったんだって」
アイリスとフェリクスが回りの生徒に溶け込んだのを見計らってヴェーラがそう切り出した。集会が行われる曜日は決まっていて、月曜日と金曜日だけなのだが、今日は月曜。つまり臨時だろうが何だろうが本来は集会がある日である。
通常の集会ではなく、臨時集会――と言う事は、国軍のお偉いさんの話を聞くとかそんな感じなのだろうか。面倒な事この上無い。
「・・・それにしても、何だか何も整ってないっていうか、集会の準備終わってないよね」
ふと壇上を見上げたアイリスは呟いた。本来、この時間だったら粛々と誰それの話を聞く準備が整っているはずだ。だが、相変わらず壇上では教師達が行き来しているし、話し声が煩いと注意もしない。
そうだね〜、とフェリクスが緩く同意した。何が起こるのだろう、とわくわくしているようだ。
「何かあったのかなぁ?」
「誰かの長話じゃないなら、私は何でもいいなぁ。ね?そうでしょ、アイリスちゃん」
「え?・・・うん、そうだね」
「それに、先生方の顔色、あまり良くない気がするなぁ。新型ウィルスが流行ってる!とかかな?」
去年はインフルエンザが寮内で大流行し、集会所で厳正な注意を受けた。曰く、体調管理ぐらい出来なくてどうする、と。先生達の顔色が悪かったのはきっと、国軍のお偉方にこってり小言を食らったからだろう。今思えば気の毒な話だ。
――と、不意に肩を叩かれたアイリスは跳び上がるようにして振り返った。
「おやぁ、ごめんね。はいこれ、前に回してくれる?」
教師のエヴァンがそう言って微笑んでいた。この慌ただしい空気の中、彼だけがマイペースを貫いているようで壇上の同僚達を笑って見上げている。
そんなクラスAの担任に渡されたのはプリントの束だった。
「あ〜、これ、前からも回してるやつか。俺にも一枚ちょーだい」
「アイリスちゃん、私にも!」
背が高いフェリクスは背伸びするだけで最前列の動きが見えるらしく、前もプリント配ってるとわざわざ教えてくれた。
そんな親友とヴェーラにプリントを渡し、適当に前にいた生徒にプリントを渡す。
そうこうしているうちに、集会が始まるのを待ちきれなくなったのか、ヴェーラは自らの担任に問うた。
「ねぇ、先生。今日はどうしちゃったんです?何だか不穏な空気ですよねー」
そうだねぇ、とエヴァンが目を細める。思いがけず拝んだ真剣な顔に胃が縮まるのを感じた。大人のこういう視線は、苦手だ。
「ちょっと・・・マズイ事になってるからね。先生は先が思いやられるよ」
「マズイ事〜?」
「そ。フェリクスくん。君はただでさえ人の話を聞かないから、気を付けてくれよ。あー、君」
エヴァンが指さした先はアイリスである。他クラスの担任から指を差されて驚き、一歩後退る。苦笑した彼は困ったようにお願いをした。
「悪いね。君、いつもフェリクスくんと一緒にいる子だろう?彼、きっとすぐ今日の話忘れちゃうだろうから代わりに聞いておいてくれるかな?」
「・・・あ、はい」
「ありがとう、助かるよ」
「頼りになるよね〜、アイリスは」、と言って笑うフェリクスを睨み付ける。自分の落ち度を反省する気は無いようだ。