1日目

1.



 寮を出た時点で残り5分。集会所の入り口が見えたところで残り2分。肩で息をするアイリスとは裏腹に、並走しているフェリクスは涼しげな顔をしている。それが余計に苛立ちを煽るが、文句を言える余裕は無かった。
 完全に間に合う事が確定したのを感じ、走るのを止めて早歩きに切り替える。
 入り口に立っていた教師――クラスAの担任であるエヴァンが微笑ましそうに笑っていた。どうやら、遅刻者をカウントするつもりらしい。

「君達危なかったねぇ。あと1分で違反切符発行するところだったよ。おはよう」
「・・・おはようございます」
「あ、センセ〜、おはようございます」

 フェリクスのクラスはAだ。つまり、担任は目の前の緩そうでそうでないこの人である。実はアイリスは少しだけエヴァンが苦手だ。

「行こうよ、アイリス」
「うん。・・・あれ?クラスごとに集まってるわけじゃないの、これ?」
「そうみたいだね〜。ん〜・・・みんな、落ち着き無いみたいだし。どうしたんだろーね」
「まあ、いいや。とりあえず生徒の中に混ざろうよ。エルバート先生の視線が痛い」

 エルバートはクラスBの担任。アイリスはCクラスなのであまり面識のない教師だが、剣術の授業を受け持っているので必然的に顔を合わせる教師でもある。
 魔法専門なので悪目立ちしているようだが、あまり注意して来ないところを見ると「誰もが剣技を習得する必要は無い」、というタイプのようだ。

「賑やかだな・・・」

 平均年齢18歳。ほとんどが18歳で、たまに17歳がいて、さらに19もちらほらいるのがこの学院である。全員が一緒くたに教育を受けており、A〜Cクラスの分ける基準は成績。1年ごとにクラスが更新されるが、CからAへ行けた者はほぼ皆無である。
 人で例えるのならばボンヤリして緩そうに見えるフェリクスはクラスA。戦闘能力が高い上、魔法の扱いにも長けた者だという意味だ。
 引き替え、アイリスはCクラス。魔法しか使えない上、機動力はあるが敵を殲滅する能力が低いからだ。そういうクラス分けなのは分かって貰いたい。
 学院の正式名称は第13部隊訓練兵。つまり、国から見ればこの学院にいる生徒達はすでに兵士なのである。
 ――ともあれ、二十歳に満たない青年少女達を集めればこうして賑やかになるのは当然である。そして、それを統率しうる教師達もまた。

「あー、おはよう。フェリくん、アイリスちゃん!」

 高く澄んだ声で我に返る。顔を上げれば知ってるような知らないような、そんな感じの女子生徒が立っていた。誰だったか、と思考を巡らしている間にフェリクスが片手を挙げる。

「おはよう、ヴェーラちゃん。いつも元気だね〜」
「ああ、Aクラスか・・・」

 ヴェーラという名前でようやく思い出した。彼女はクラスA。つまり、フェリクスのクラスメイトである。どうしてアイリスの名前まで知っているのかは思い当たらないが、大方、フェリクスといつも一緒にいる子とでも思われているのだろう。
 ツインテールを揺らしながら、当然のようにヴェーラが隣に並んだ。笑顔を向けられるが、コミュニケーション能力が著しく低いアイリスは苦笑いのような、引き攣った笑みを向ける事しか出来なかった。