プロローグ

2.



 朝から迎えに来る事のある親友は机の上に乗った分厚い日記帳を見て眉根を寄せた。恐らく、「何でこんな小難しそうな本読んでんだ」とでも思っているのだろう。
 案の定、興味を示したフェリクスはアイリスの脇を通り抜けてその日記帳を手に取る。

「んん〜・・・?何コレ、No.1?」
「そうだけど」
「・・・あー!分かった!これ、いつか言ってた日記帳でしょ!へー、ホントに書いてたんだぁ」
「・・・・」
「中見ちゃおうっと」
「えっ!ちょ、待っ――」

 慌ててフェリクスの手から日記を引ったくろうとするが、あっさり躱される。軽そうな言動と同じく、身のこなしも軽い。
 いいじゃん、と笑う親友は悪戯っぽくニヤニヤと嗤っていた。これは、人をからかう時に見せる笑みだ。

「どのくらい書き溜めたの?俺、結構前から日記の話聞いてた気がするんだけどなぁ」
「い、一ヶ月分くらいだよ!」
「わぁ。アイリス、嘘吐くの下手くそだね〜」

 必死の形相が逆に信憑性を欠いたのか、ケラケラと笑いながらフェリクスが表紙を開く。そして、すぐにそれを閉じた。
 何があったのか、とアイリスは怪訝そうな顔をする。

「・・・あれ。俺の見間違いかな・・・想像以上に真っ白だった気がする・・・」
「う、煩いなっ!」
「いや、真っ白ってのはちょっと、ねぇ?うん、からかって悪かったよ・・・ごめんね、アイリス」
「ガチトーン止めてくれる!?余計に落ち込むから!」

 何も見なかった事にするつもりらしく、そっと日記帳を元あった場所に戻すフェリクス。その気遣いが余計に腹立つので止めて頂きたい。即刻。
 文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけた、その瞬間。乱暴にドアがノック――否、叩かれた。何だ何だと二人揃ってドアの方を見れば、廊下から男の声が聞こえて来た。

「いつまで騒いでいる。集会だ、早く寮を出ろ。遅刻は減点するぞ」

 ――朝っぱらからとんでもない爆弾を投下。
 誰なのかは確認出来なかったが、恐らく教師だろう。続いて隣の部屋をノックする音も聞こえた。ただし、声は聞こえなかったのでもうお隣さんは出てしまったようだが。

「え〜。集会ってつまりさぁ、8時からだよねぇ?ちょっと遅刻しそう――」
「だから急いでよ、フェリクス!減点切符は要らない!」
「だよねぇ。あの紙、この世で一番要らない紙だよね〜」

 素早く鞄を掴み、身を翻す。後ろでフェリクスが何か言っているようだったが、正直彼が遅刻しても自分だけは遅刻したくないので聞こえぬふりだ。