02.ヒヤヒヤする会話の応酬
十束との連絡はすぐに付いた。
『俺は今、センターの1階にいるんだがお前はどこにいるんだ?』
『私は3階、302号室にいるよ。廊下に出ておくから、そこで会おう』
『ああ! 分かった!』
メッセージのやり取りをし、スマホをポケットにしまう。十束が1階という事なら、恐らくは階段しか使えないのでここへ到着するまでにラグがある。頃合いを見計らって廊下に出るとしよう。
数分後、廊下に出ると大量の霊符を持った十束とあっさり合流出来た。何か妨害が入るかと予想していたが、何事も無くやや拍子抜けである。
「やあ、ミソギ! 久しぶりだな!」
「そうかな……。この間も会ったでしょ、同じ仕事で」
「お前、もう数日間眠りっぱなしだぞ!」
「マジか」
とにかく、合流した十束に今までの経緯を説明する。あれもしかして、これ違う人が来る度に今まであった事を説明しなければならないのだろうか。それはそれで面倒な気がする。
見えない未来に早くもうんざりしていると、それまで蔑ろにされていた結芽が遠慮がちに訊ねてきた。
「ミソギさん、その人がさっき言っていた人?」
「ああうん、彼は――」
十束の情報を伝える前に、他でもない十束本人が自らを指し示していつも通り元気良さげに名乗りを上げる。
「やあ、俺は十束! ミソギがさっきから言っている人、というのは間違いなく俺だろう。そういう貴方は樋川結芽だな? 一緒にここから出られるよう頑張ろう!」
「え、ああ、うん……」
恐ろしく前向き且つ無意識な煽りに、結芽本人でさえ若干引き気味だ。ただし、現状を忘れていると疑ってしまいかねない十束の振る舞いに彼自身はご満悦そうである。正しい事をしたと言わんばかりだ。
「そうだ、ミソギ。雨宮から伝言を預かっているぞ!」
「え? そういう事は早く言おうよ。無駄な時間多過ぎでは?」
「はっはっは! 焦ったって仕方ないからな。で、雨宮からの伝言だが――現実時間の午後8時にミソギを支部へ連れて来て欲しいそうだ」
「現実時間……」
「ああ! 待機の白札達にはリアルタイムを随時教えて貰えるようになっている。アプリを見れば、夢の外が何時なのか分かるはずだ」
「ちゃんと対策打って来たんだね」
「当然だ!」
こういう小回りが利くからこそ、雨宮を先発にしたのかもしれない。更にその後、考えた作戦を実行する力を持つ十束を投入。理に適った編成と言えるだろう。
「ちなみに、支部に私を連れて行ってどうなるの?」
「ああ、赤札を待機させておく。霊感を持つ者同士、異界で隔てられているとはいえ同じ場所にいれば何らかの反応を起こすかもしれないだろう?」
「それもそうだね。うん、何か起きるかも」
「それに、案外センターの内部なんかも現実とほぼ同じで少し安心したぞ! 全く別構造だったら流石に絶望していた」
それはミソギ自身もこの夢に足を踏み入れてしまった時から感じていた事である。あまりにも相違が無いが、全く同じではない。所々にやや見慣れない家具が置いてあったり、何だかリフォーム前、もしくはリフォーム後の部屋を見ているような錯覚に陥る瞬間が稀にあるのだ。
ねえ、と思考を遮るように困惑した面持ちの結芽が口を開く。
「本当にその、支部っていう所へ行けば夢が覚めるの?」
「ぶっちゃけ分からない! だが、ここでじっとしていても状況が変わらないなら、動くしかない!」
十束が返事をすると、結芽が「いや、あなたには聞いてない……」、と本当に小さな声で呟く。何だかこの2人、見ていてハラハラするくらいに相性が悪いぞ大丈夫か。
しかも、十束からの返事に腹が立ったのか、結芽が煽るような言葉を再度口にする。
「じゃあ、外から来たあなたも出る方法は全然分からないって事?」
「はっはっは! 厳しい意見だが、確かにそうだな!」
「そう……」
もうこれ以上は胃が限界だ。ミソギは堪らず割って入った。このままでは冷戦状態のまま、十束が起床する事になりかねない。そんな事では困るのだ。
「と、とりあえずさ。1階まで行って、まずはセンターから出ないと。支部を目指すにしたって、ここに長居する意味は無い訳だし! さあ、レッツゴー!」
「やる気に満ち溢れているな、ミソギ! 俺達同期組が揃えば、怖い物は無い!!」
「いやある! 怖いから早くここから出たい!」
あまりにも話が進まないので、先頭切って歩き出す。良いから早く夢から覚め、通常業務に戻りたい。通常業務のありがたさをひしひしと感じるくらいには神経が参って来ている。