04.三舟からのプレゼント
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件の患者、支部のエースであるミソギの病室は現在無人の状態だった。
というのも、彼女に関わりのある人物達はほぼ全員会議室にいたし、蛍火は別の業務でセンターを留守。
まるでその状況を知っているかのように、センターのロビーを素通りし何食わぬ顔をしてエレベーターに乗って、3階までやって来た老人――三舟は当然のような顔をしてミソギの病室を訪れていた。
見舞い客にしては軽装である上、荷物らしき荷物を持たない彼はさぞや不審な人物だろうが、あまりにも堂々とし過ぎていたが為に誰に見咎められる事も無く目的地へと到着したのだった。
二度、三度。少しだけ用心深く病室にミソギ以外の人間がいない事を確認した三舟はポケットからこれまた当たり前のようにスマートフォンを取り出す。
慣れた手つきで充電器に接続し、そのスマホを探さないと見つからないような、備品の人形の下に入れ込む。
泥棒のような手付きで目的を終えた三舟はやはり何事も無かったかのように病室を後にした。
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昔、南雲を救出する為に訪れた学校。七不思議が強い力を持つ、夜の学校だったそこにミソギと結芽は足を踏み入れていた。当然、来たいと思って来た訳では無い。自宅へ向かおうとしたら、いつの間にかここに居たのだ。
夢の中なので驚くような事では無いのだが、何故よりにもよってここなのだろう。ミソギの背を冷えた汗が伝う。
ぎしり、と足下の床が軋んだ音を立てる。そこで初めて気付いた。木造の校舎なのだ。旧校舎の方だろうか? いや、そもそもあの学校に旧校舎などあっただろうか――
混乱で取り留めの無い思考がグルグルと回る。何もかもが曖昧で、そして不確かだ。自分自身の記憶ですら定かでは無い。
「どうしたの、ミソギさん?」
「あ、いや、何でも……。木造の校舎って何だか不気味ですよね」
「そうね。私も少しだけ怖いわ」
全く怖がっている様子も無く結芽が同調する。本当に怖いと思っているタイプではなく、単にこちらへ話を合わせたのだろう。それにしても随分と肝が据わっているようだが。
「それ以前に、こんな校舎だったかな……」
せめて昔、あの仕事に参加していたメンバーに話を聞けるなら。ここが木造校舎で、旧校舎などの存在があったのか訊けたのに。
――そう思った刹那。
不意に自身のポケットから聞き慣れたメールの着信音が鼓膜を叩いた。完全な不意討ちに、小さく悲鳴を上げる。
「あっ、あれ!? スマホがある!!」
「……さっきは無いって言っていたのに」
結芽が眉根を寄せて首を傾げた。旧校舎に入ってしまった時よりずっと怪訝そうな顔をしている。喜ばしい事だと言うのに、その反応は小さな違和感を芽生えさせた。
浮かない顔をした結芽は一度置き、メールを開く。
――三舟からだ。
メールの中には以下、2点について事務的に打ち込まれていた。
まず、現実におけるミソギ自身の肉体の状態。どうやら昏睡状態という事で、301号室に入院している状態らしい。
そして三舟の手によって、業務用のスマートフォンが運び込まれている話。スマホを入手し、このメールを見たのなら返信するよう書かれている。
頼れる大人と化した三舟に、心中で手を合わせながらメールに返信。無事、スマホは受け取ったと。ついでに結芽についても軽く触れておく。
メールが三舟のスマホへ飛び立ってくれるのか心配だったが、送信ボタンを押せばきちんとメールは飛んで行った。電波障害などの表示も無い。
「結芽さん、ちょっと待ってくださいね。私が無事である事を、みんなに報せないといけないので」
「ええ。分かったわ」
あまり色よい返事では無かったが結芽はそれ以上、ミソギの行動に異を唱えたりはしなかった。それを確認し、三舟の返事を待つ間、アプリも開く。
現在手に持っているスマホは自分の物では無い。機種は支部で配布されているものと同じなので使い方は分かるが、裏のラベルは見た事の無いナンバーが刻まれていた。どこの業務用スマートフォンなんだ、いったい。
首を傾げていると、見慣れたアプリがインストールされている事に気付く。これは、異界へ取り込まれた時に使ういつもの掲示板アプリだ。慌ててIDとパスワードを打ち込み、ログインする。
すぐに相楽が立てたルームを発見した。完全に自分の事に関する情報を集めている。どのくらい眠っているのかは知らないが、かなり大事になっているようだ。何も分からずお手上げ状態である事が伺える。
返事をどうするか考えつつ、三舟に二度目のメールを送る。曰く、アプリのルームに返事をしても良いかという確認だ。
「ねえ、ミソギさん。この場にずっと立っておくの?」
結芽の急かすような声で我に返る。彼女の言う通り、ここに突っ立っていても仕方が無いし、確か彼女は体力が無かったはずだ。立たせておくのは可哀相だろう。
しかも、廊下の先からボールが跳ねるような音も聞こえて来る。どことなく覚えのある状況に、ミソギはくるりと踵を返した。多分あれは七不思議の一つ、生首ボールの近付いて来る音だ。
「すいません、結芽さん。逃げましょう」