05.美影社
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解析課のメンバーと落ち合い、美影社に到着したのは午前11時を過ぎた頃だった。昼も摂ってないな、と思っていたら正午には会社からお弁当を出して貰えるそうだ。普通の依頼人よりずっと待遇が良いのに感心した。
「降りろ」
意外にも丁寧に駐車した敷島がそう呟いてエンジンを切り、車の外へと出て行く。同期4人と共に後部座席へすし詰め状態だったミソギもまた、慌てて車外へと足を踏み出した。
そびえるは超高層ビル。ゲーム会社というのは儲かっているのだろうか。このビルを一つ、丸々貸し切りだと聞いたが。
「ミソギ? どうかしたのかな?」
その他諸々、色々と気掛かりな事を考えていると雨宮が不思議そうに話しかけて来た。最近はよく口にする「何でも無い」という一言を吐き出し、出迎えの為に出て来ていた社員の背を追う。
とにかく、そう。USBの件を敷島に話せなかったのが一番気掛かりだ。たぶん、三舟の事だから彼に何かしら連絡はしているはずだし、そう言っていたが確認しないと不安で仕方が無い。
何より、今日はトキが恐らくべったりずっと一緒だ。常日頃であったのなら喜んだが今回ばかりはそうも行かない。非常に都合の良い思考回路だとは思うけれども。
「敷島さん、私はどちらへ着いていきましょうか」
今日も一緒だった山本凛子が訊ねる。一瞬だけ考える素振りをみせた敷島は、ややあって的確な指示を吐き出す。
「俺はゲームやってる連中を見ている。お前はお偉いさん方に話を聞いて来い」
「了解致しました」
「まあ、起きねぇとは思うがトラブったらすぐに呼べよ」
役割分担、ゲームの制作過程を洗う担当となっている十束が首を傾げる。
「うん? 結局の所、俺達は何を見に行けば良いんだ?」
「制作過程で怪異の種になるような出来事が無かったか洗ってみるという話よ。よろしくね、二人とも」
どちらも友好的な人間性を持っているからか、凛子の言葉に景気よく返事をするのが見て取れた。ここで人的なトラブルは起きないだろうと予測さえ出来る程だ。
一方で――
と、ミソギは自らのメンバーを鑑みる。
――何で気が強そうな人達ばっかり集まっちゃったかなあ。
少なくとも敷島はトキがお気に入りとの事だが、逆も然りとは言い辛い。トキの方は普通に敷島を鬱陶しいと思っている可能性すらある。
「えーっと、敷島さん。具体的に私とトキは何をすれば良いんですか?」
「手順に則ってゲームを進めるだけでいい。何をすればいいかは、その時に話す」
対応が変わってくるという意味だろうか。何でも良いが、USBを指す隙だけは早急に作って欲しいものだ。
「トキ……ゲームとかやった事あるの?」
「無い」
そうだろうとは思っていたが、あまりにもあっさりそう言われてしまうと形容しがたい雰囲気になってしまう。これは実質、自分一人で仕事をやるようなものではないのか。
「じゃあトキは私の面倒を見る係って事だね」
「何もしないとは言っていないだろうが。というか、貴様一人で仕事が完遂出来るのであれば、そもそもこの大人数で仕事をする事など無い」
「ド正論腹立つわぁ……。でも、この感じは久しぶりかもしれない」
「最近は連絡すらまともに取れないな、ミソギ」
連絡も何も、スマホ触るの苦手じゃん。そう心中で呟く。基本的にメールを打つのは怠いので電話、アプリすら使うのが面倒臭いのがトキだ。こちらから連絡を取らなければ疎遠になるのは当然の事、純然たる事実である。
エレベーターの前で止まっていたら、大きなそれがぽっかりと口を開けた。皆が乗り込むのを見て、中へと入る。クーラーが効いていて非常に涼しい。
「開発関係は4階となります」
社員さんがやや疲れたようにそう言ったのに対し、十束が元気よく応じるのが非常にシュールだ。温度差が酷い。
「あ、ゲームをテストプレイする方々は7階ですよ」
成る程、それぞれで階が違うから社員が2人もいたのか。どこかぼんやりとミソギは頷いた。