3話 反転する駅

02.困った時の事務処理員


「仕方ねぇ、内監にでも聞いてみるか……。調べてくれるかもしれないし」
「内監? 内部監察部の事ですか?」
「そうそう。あいつら、暇してっからさ。こういう事務的な裏事情を調べてくれたりするんだよ。つっても、ペナルティ無しってんなら上の決定だろうし、今更その決定が覆る事は無いだろうが」

 内部監察部――除霊師の階級を表す色札と、ネームプレート、そしてもう1枚。透明なプレートを提げているのが内監の印だ。彼等は機関内部の不正を取り締まる役目を担っている。

 それで、と相楽がやんわり話題を変えた。脳内が仕事の話に切り替わる。間違い無く、ペナルティの有無で彼に呼び出しを喰らった訳では無いのだと。

「はい」
「今日の仕事だが。今日も今日とて解析課で頼む」
「そうですか……。どんな仕事なんでしょうね」

 などと呟きつつ、脳裏に過ぎるのは敷嶋と三舟が知り合いだったというオチだ。今日、もし敷嶋が居た場合何を言われるか分かったものではない。若干の憂鬱な気分。テディベアが消えた時、彼は麻央相手にも恐ろしい形相をしていた事は記憶にあたらしいし。
 小言の一つや二つ、否、嫌味の一つや二つ言われたっておかしくないだろう。

 黙り込んでいたからか、やや心配そうに相楽が首を傾げた。

「どうした? やっぱり、解析課は苦手か。ミソギ」
「まあ……。メンタル薄弱者には厳しい環境ですね。解析課」
「来月は南雲だが、大丈夫かこれ。つっても、解析課の仕事ってのは本来、そう多くない。何故か今月はあらゆる事が起きてっけど」
「そうなんですか……!?」

 そういえば、先月担当だったトキはほぼ支部に居た気がする。今月だけ、何故か特別に忙しいのか。それが三舟による根回しとも限らない所が、更に不安を煽る。
 三舟には状況提供の為の条件を付加しているが、あの誓約書が本物だとは限らない事に加え、ミソギ自身が死亡しなければ三舟の隠蔽は露呈しないので実際の所、彼が何を考えているのか不明だ。こっそりと情報の制限をしているかもしれないし、或いは包み隠さず全てを話してこの程度の情報量なのかもしれない。

「ミソギ?」
「あ、ああ。すいません。それで、私は今日どこへ向かえば良いんですか?」
「おう。敷嶋と凛子ちゃんが迎えに来る、つってたぞ」

 ――敷嶋さん居るのかよ! これは終わった!!
 ミソギは引き攣った笑みを浮かべつつ、心中で両手を挙げた。嫌味フルコース確定である。

「何つってたかな。何とかって駅の調査をしに行く、つってたような。あ、駅の噂話の調査だったか?」
「噂の調査、ですか?」
「そうそう。ま、怪異が発生しかねない噂話を故意に流してる、ってんなら逮捕対象らしいからな。どこでどう線引きしてんのか、おっさんには分からねぇが」

 言論弾圧ではないのか、それは。そう思いはしたが噂を核にして怪異が生まれるのは事実だ。出来るだけハードな怪談話を避けて欲しいと思うのもまた、現実である。しかし、人の口に戸は立てられないもの。そこはそれ、諦める他無いのだろう。

「とにかく、私は仕事に行って来ますね……」
「頼んだ。ま、今月も半ばまで来たからな。もうこれ以上、解析課の仕事はねぇだろう」
「相楽さん、それフラグですよ」

 はっはっは、と笑う組合長を虚ろな目で睨み付ける。最早、確信に近いそれがあった。今月の仕事、今日で終わりじゃないなと。