1話 アルバイト先の先輩がやたらと前世の話をしてくる

08.バイト面接の報告・上


 ***

 翌日。朝一で学校へ赴いた出雲は、すぐに友人2人を見つけ出し、集合を掛けた。

「ちょっと集合!」
「朝から元気だねえ、出雲」

 呆れた顔をしているのはスロースターター赤錆暖真。彼は放課後が近付くに連れて元気になる男子高校生である。一方で朝方の錦氷蒼灼は既に冴えた顔をして、話をグイグイと進めて来る。

「どうしたの、というか確実にバイトの話だよね?」
「そう。バイトの話」
「なに? まさか、面接落とされた?」
「いや、面接は異例の早さで採用通告された。されたけど、ちょっと……いやかなり不安な事があって」

 途端、それまで優しげだった蒼灼の顔が曇った。何か思い当たる節でもあるのだろうか。
 ともあれ、昨日の出来事を話さなければ。手短に昨日の面接の話をする。
 一連の出来事をうんうん、と言いながら聞いていた友人達はしかし、やはり前世云々の話でかなり――否、非常に渋い顔をした。やはり、あの光明院の執務室メンバーがおかしいのだ。

 全てを話し終わり、ようやく疑問点を2人に訊ねる事が出来る。昨日からずっと疑って掛かっていた、そもそもの問題を、ようやく口に出来るのだ。

「あのさ、私ちゃんと機構の面接に行った? 間違って別の会社のバイト面接受けたんじゃないかって、昨日からずっと気になってたんだけど」
「それは機構で間違いないよ。それより」
「それより!? 今のが一番大切な疑問なんだけど」

 蒼灼はやはりグイグイと話を進めてくる。あまりにも真剣な目をしているので、思わず彼の言葉を聞き入ってしまった。

「その、日向さん達が言ってた、前世の話なんだけど……」
「ああうん」
「出雲は非現実的な事を信じないタイプだし、頭から信じなくて全然いい。いいんだけど、もしまた日向さんがその話をするようだったら、黙って聞いてあげて欲しいんだ」
「ええ?」
「頼むよ。もういっそ、相槌も打たなくていい。だから否定はしないで欲しい」

 返事に窮していると援護射撃でもするかのように、暖真まで言い募ってきた。

「お願いだよ出雲。俺達も面接前に、出雲はそういうの信じないって事をちゃんと日向さんに説明しておいたけど、でもやっぱり忘れてたみたいだからさ。いや、忘れてなかったのかもしんないけど……」
「ちょっと意味分かんない。意見をまとめてから喋ってよ」
「ご、ごめん。言語ガチ勢だもんね、出雲。とっ、とにかく! 日向さんマジでメッチャ良い人だから、悲しい思いとかさせたくないんだよ! だから! 話とか合わせなくて良いから! 否定はしないでね!!」
「まあうん、分かった」
「頼んだよ!」

 最後にもう一度だけ念を押された。光明院日向、上司に当たる人物だが友人達からは「良い人」という評価を得ているようだ。彼等の言い分が間違っているとは思わない。1日だけ会った自分より、彼等の方が上司についてよく知っているだろうからだ。
 他でもない、たった2人の友達がそうお願いするのであれば理由も無く突っぱねる事も無い。前世云々のスピリチュアル系な話題は引っ掛かりこそすれど、害がある訳でも無いからだ。

「ところでさ、晴れて同じバイトを始める事になった訳だけど。2人は? 何か上司、違う人なんだよね」

 そうだね、と蒼灼が頷く。

「俺と暖真は同じ上司だよ。篝火さんって人。昔のよしみでその人のお手伝いをする事になったんだ」
「顔見知りだし、割と楽しいよ。クソ雑魚の俺を放っておく事も無いし」

 負の感情は無さそうだ。健全なバイト生活が送れているようで何より。しかし、「篝火さん」とやらもよく知らないのでもし会う機会があったらよくよく観察してみよう。

「じゃあ、私の上司は? どんな人なの? 今日からバイトなんだけど」
「なになに? 興味ある? 興味あるの? 出雲!?」
「何でそんなに食い付いてくるの? 興味はあるよ。だってあの人、私がバイト行ったらほぼ確実に毎回顔を合わせる人なんだよね」
「そうだよねー、気になるよねー」

 ニヤニヤとした暖真。その言葉を引き継ぐように蒼灼が口を開く。

「対策部門のSランクにいる人だから、凄く武闘派だよ。ニュースとか観てたら結構映ってるんじゃないかな。肉体的にも強い人だけど、メンタルもかなり強靱な人、かな」
「あとメッチャ優しい! 助けて下さいって言ったらすぐに助けてくれる感じ! 書類仕事はちょっと苦手だって聞いたけど」
「総合的に言うと、凄く良い人って事かなあ」
「なるほど、ってよく言うよな。分かってない時にもなるほどって言うもん」

 人の印象というものは他人から聞いても分からないものだ。これから1年間は確実にお世話になるだろうし、ゆっくりどういう人なのか分かれば良い。その前に、セクハラ問題などを起こさなければの話だが。