4話 天国への階段

01.会議だよ! 全員集合!


 午前10時半。
 機関支部、大会議室にて三怪異に振り回された面々が揃い踏みしていた。皆一様に色付きのプレートを首から提げているが、こんな光景はそうそうお目に掛かれないだろう。

 会議室をぐるっと見回したミソギは大きく背伸びをした。昨日――十束、鵜久森と『質問おばさん』の件を解決してからあまりきちんと休んでいない。体力的にも色々と限界だ。

「お疲れみたいですねっ、ミソギさん!」
「ミコちゃんは元気そうだよね……」
「はいっ! 私は元気ですよ!」

 今週が忙しくなるというザックリした予知を見事に的中させた巫女であるミコは今日も可愛らしい笑顔を浮かべている。彼女は青札なので、今までの三怪異と対峙した時には招集が掛からなかったのだ。

「つか、ずっと前から疑問に思ってたんだけどさ、ミコちゃんって霊符作ってるらしいじゃん? あれって、俺等バンバン使ってっけど、無くならない訳?」

 南雲に対し、よくぞ聞いた、と言わんばかりにミコは誇らしげな顔をした。歳相応の表情とも言える。

「満月の4日前には大祈祷をして、何枚くらい霊符を作れば良いのか占うんですっ! 今まで外れた事が無いんですよ!」
「ははっ、そいつぁスゲェや。マジ霊符印刷マシーンじゃん、ミコちゃん」
「手書きですっ!」

 全然関係の無い話なんだが、と十束が緩く片手を挙げた。昨日は彼の家に勝手に泊まって来たので、鵜久森の車に乗せて貰って支部まで来たのだ。つまり、朝起きてからずっと一緒に行動している事になる。

「俺は昨日、『質問おばさん』を討伐した後の記憶がほとんど無いんだが、お前達は何故うちに泊まっていたんだ?」
「0時を過ぎていたから、車を運転して帰りたくなかった。暗い道を運転するのは嫌いなんだ」
「そ、そうか……。いや、悪かったな。布団も枕も無くて」
「構わないさ。私達が勝手に上がり込んだのがそもそもの元凶。だが、床に直寝するのは身体を痛めるから止めた方が良いぞ」

 貴様、と怒気すら感じるトキの声は間違いようもなくミソギへと向けられていた。

「そんな下らない理由でそこの馬鹿を私に押し付けたのか!?」
「あ、南雲、昨日は結局トキの家にお泊まりしたの? 神をも恐れぬ所行だよね」
「話をすり替えるなッ! コイツ、夜中2時くらいになってきたら『深夜テンション』などと頭の悪そうな事をほざいて喧しくて堪らなかったぞ!?」
「いや、逆に聞くけどさ。私を迎えに来て、その後南雲をどうするつもりだったの?」
「貴様と一緒に自宅に帰すつもりだったんだッ!」

 成る程。自分を送り届けるついでに、南雲も家へリリースしようと考えていたのか。それならば南雲の『ミソギ先輩が心配で〜』などという建前も潰せるし、なかなかに妙案である。
 お泊まり良いなあ、と今までの流れを見て何が良いと思ったのかうっとりとした表情でミコが呟く。

「ね、今度、パジャマパーティしましょうよっ! 私の家、一軒家なので泊まりに来ていいですよ!」
「占いが6位以下の時は邪魔をしよう。その日の私は使い物にならない」
「そんな日、あるんですか!? 有給を取ってくださいっ!」

 あ、と十束が何かを思い出したように手を打った。

「車で思い出したが、この問題を解決したら打ち上げに行かなければいけないな!」
「十束さん、そういうの好きですよねっ! 私達、未成年組も入れるお店でお願いしますよ!」
「ああ、勿論だ!」

「それっておじさんも頭数に入ってんのかね? 土日は忙しいから、火曜か水曜で頼むわ」

 遅刻して会議室に入って来たのは顔色の悪い相楽だった。久しぶりにかなり忙しいし、死亡者や行方不明者が大量に出ているので仕事詰めになってしまったのだろう。
 目が疲れているのか、目頭を揉みながら相楽はミコの隣に腰掛けた。今回の一件に関わっている除霊師はこれで全てだろう。

 入って来てそうそう、部屋に居る人数を数えた相楽は満足げに頷いた。

「よしよし、全員いるな。ま、こんだけ騒ぎになってんのに渦中にいたお前等が全員無事だったのは僥倖だった。赤札が減ると身動きが取れなくなるからなぁ……」
「始めますか、相楽さん?」
「おう、始めるよ。取り敢えず、情報の共有から始めるかな。白札の解析班が優秀だったおかげで、そこそこ色んな事が分かってる。昨日の間にな」

 スマートフォンのアプリを開き、まとめ記事も開いた相楽がそれを一度、二度何故かタップして話を始める。

「あー、前にも送ったかもしれないけど、『三怪異』のルームIDを送った。何か問題が起きた時、俺に電話が繋がらない時はそっちに書き込め。多分誰か見てるはず。それじゃあ、まずは『供花の館』について分かった事を端から並べていくぜ」

 相楽が手早く語った情報は以下の通りである。

 供花の館とは人形館である。人形を造る職人であり、空前絶後の殺人鬼でもある『八代京香』の住まいだ。これは実際に起こった事件なので、解析班の白札が30年前の事件を洗い出してくれた。なお、その彼は元・警官である。
 これは推測でしかないが、八代京香と『キョウカさん』は恐らく同一人物だ。名前も同じだし、これ以外である方があり得ない。

「リアル殺人事件、って事すか? だったら怪談も何も、実話なんだから関係無くね?」
「そうだな。それだけなら人間が起こした事件だと認知されているから怪談になる事は――まあ、ほとんど無いだろうな。だが、八代京香が起こした殺人事件は、猟奇的殺人事件だ。怪談になる余地がある。行動の意味不明さ、理解不能さなんかがな」
「へぇー、怪異って何か色々面倒なんすね」

 ちょっと待ってください、と鵜久森が顔をしかめる。

「昨日、ルームに流れていた考察班の話によると、供花の館はすでに取り壊されているのでは? 別途、アプローチを掛けるという事ですか?」
「それについては、『天国の階段』っつう怪談が何故か供花の館と開通してるらしいから、そこから行くわ。間違い無く異界だがな。が、今は館の話は置いておいてくれよ。本腰入れて考えねぇと、解決しようがない問題が残ってんだよ」