3.





 状況を見た風花が首を傾げる。思わぬ人間達の三つ巴に疑問を感じたらしい。取り合わせの不明さは弁解のしようが無いので黙殺。
 ここで後ろから出て来た明月がああ、と納得したように頷いた。

「どうやら、また霧氷殿が甘音殿を連れ出そうとしていたようだ、うん」
「また?もう、兄上ってば・・・」

 呆れたような妹の視線を受け、兄の方は不敵に嗤った。顔の造形こそどことなく似通った兄妹だが、浮かべる表情と態度は常に正反対である。相手を挑発する、という面においては文句なしなのだが。

「紫水ちゃんが困ってるから止めてよ、兄上」
「知らんな。たまには不自由すべきだ、義妹といえど」
「大人げないなあ・・・」

 良いときばかり義兄弟だ何だと言わないでよ、と風花が肩を竦める。
 ふん、と鼻を鳴らした霧氷はいい加減妹の相手に飽きてきたらしかった。そもそもが甘音に用事だったのだから当然と言えば当然である。

「去れ。私は一時、執務を休憩すると決めている」
「ようはサボりでしょ?ま、あたしも人の事言えないけれどね」

 その言葉が合図だったように笑みを消して睨み合う。どうやら兄妹喧嘩でも始める様子だった。
 一つ溜息を吐く明月がとてつもなく憐れである。

「斎火はまだ帰って来ないの?」

 紫水が話を振った相手は軍師だった。彼も少女のこの行動には驚いたのか、一瞬だけ変な間が空く。

「あぁ、そうだね。まだ帰って来ないと思うよ」
「どのくらいで帰るの?」
「うーん、そうだな・・・。まだ戦が終わったという話は聞かないし、帰って来るのにも何日か掛かるから――最低、5日ってところかな、うん」

 そう、と呟いた少女は何か思案するように視線を床へ向けた後、唐突に顔を上げた。その目はやはり軍師を見ている。
 また何か話し掛けられるのか、と明月の身体が若干強張ったのを甘音は見逃さなかった。

「1人で行ったの、斎火?」
「主要武将は彼だけだよ。あまり大規模な戦でもないからね」