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一定の間隔に揺られている。何かがずっと歩いている背に乗ったような感覚。それを知覚した瞬間、自分が無防備にもぐっすり寝こけていた事に気付いた。
――と、葦切十六合は目を開けた。すぐ正面に地面が見える。
そして馬の背に乗せられているのだと気付いた。蹄がちらちら視界に入ったからだ。
状況がまったく理解できない。ゆっくりと身体を起こしてみる。その際、馬が鬱陶しいとでも言いたげに鼻を鳴らしたが、そんなのを気にしている場合ではなかった。
「・・・え・・・」
身体を起こせば十六合を乗せていた馬の前に人がいる事に気付いた。二人組でどちらも馬に乗っている、男女。見覚えは無い。
「あぁ、起きた?怪我してるかもしれないから、黙って乗ってて」
不意に女の方が振り返った。後姿は女性、と形容すべき彼女だったが振り返ってあどけない笑顔を向けられればまだもしかすると少女と形容すべきなのかもしれない。少なくとも、大人の態度ではなかった。
彼女と並走している男の方はこちらに一瞥くれたあと、すぐ前へ向き直った。あからさまに不機嫌そうな顔と、お前なんて知らないと言わんばかりの冷たい視線に息を呑む。
容姿端麗、という言葉が相応しい男であったがそうであるが故に冷たさが際立っているようにも感じた。
「いや、乗ってて、ってか・・・ちょ、止まってください!ねぇ!」
大声を上げるとなぜか背中が痛んだ。というか、全身隈なく痛いのだが背中が痛すぎて気にならなかった。
首だけ回して振り返った女が困ったように首を横に振った。
「この先に川があるから、そこで止まろう。事情と状況なら、ちゃんとそこで説明するよ。馬も休ませてあげたいし――」
「おい、無駄話も大概にしろ。もう少し危機感を持て」
「ごめんごめん。そういうわけだから、もう少しだけ我慢してくれるね?」
その言葉には妙な強制力があった。はい、と言わなければならないような。男の方と目が合う。暴れたりしたら許さない、とそう視線で語っていた。というか、彼に何かしただろうか。目が合っただけで今にも殺されそうな形相で睨まれるのだが。