01.
千石の客間で寛いでいた伊織はふと視線を感じて顔を上げた。と、こちらを凝視する恋人の顔が視界に入る。
「どうしたの、千石様?」
「――お前は結局、石動殿に何を要求したんだ?」
どうにか形の上では勝ちという事になった今回の内乱。ほとんどが偽善事業のようなものだったので給料は当然の事ながら出ないが、それでも結果報告だけは聞きたいと千石がそう言う。
一瞬だけ言葉をまとめるように考えた伊織は微笑む。
「私を軍師として戦に参加させる事。あとは、神楽木低への行き来の許可と私の行動への干渉を極力控える事。まあ、最後の一つに関しては尺度の問題があるからあまり改善されないのが見えるけれどね」
「《先見》か?」
「んー、軍師的予測の話だよ」
笑った伊織は天井を仰ぎ見る。
今はこうやって千石と優雅なひと時を過ごしているが、日が落ちてからは悟目の講義があるし、それが終わった後は九十九夫妻と町へ行く約束もしている。充実しきった一日になりそうだ。
「母上が、お前がいつ来るのかと嘆いていた」
「神楽木低へ?」
「あぁ。父上の方は苦い顔をしていたが、お前は気にしないだろう?」
「そっかー、志水殿がね。明日は一日暇だし、顔を出してみようかなあ」
「そうしろ。お前がうちへ来るのを楽しみにしているようだった」
そういえば、と伊織は思い出したように呟いた。何か企むような顔で。
「前々から思ってたけど、千石様は私が戦場へ行きたいって言うの、止めないね」
「必要があるとは思えないな。どのみち、お前が出る戦には俺も出ている事だろう。みすみす死なせはしない。ようは、お前の父上殿には自信が無かっただけのことだ」
さすがは神童である。
ぐぐっ、と背伸びをした伊織は時計を見る。そろそろ抗議の時間だ。