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頭が一瞬、真っ白だか真っ黒だか分からない状態になる。火花が散ったような感覚と、遅れて伝わる痛覚。
「にぎぃ・・い、痛い・・・」
「無事か、伊織」
「千石様・・・私の額、赤くなってない?」
「若干割れているが」
「うぐぐ・・・」
額を押さえていた手を見てみれば、ほんの少しだけ赤がまとわり付いていた。駆け寄ってきた千石が不愛想に手拭いを差し出した。それを額に当てる。気休めにしかならない。
――そういえばお父様はどうなったんだろう。
ふと気になって周囲を見渡す。不気味な程に黙っている石動が気になるのは当然だった。
「あれ、お父様!?」
「ぶつけたところが悪かったようだな。だが、お前の勝ちだ、伊織」
「ぶ、ぶつけたところ!?お父様口ほどにもなさすぎるでしょ!?」
額から血を流し倒れる父。何も知らない人間が見たら、まさに伊織の謀反が成功したように見えるが実際はただ頭をぶつけて失神しただけである。
「というか千石様・・・ほとんど貴方のせいなんだけど」
「いや、我ながら恐ろしい頃合いで現れたなとは思っている」
「そっか・・・自分の勝つ未来は《視えて》いたけど・・・まさか、こんな形になるとは思わなかったな」
「ああ、俺も予想外過ぎて夢ではないかと思っていたところだ」
ふ、と千石が微かに笑った。
珍しく穏やかな表情で倒れた石動を見下ろしている。心なしか、清々しさをも感じる表情だ。
「よく頑張った、伊織。これで俺達の未来は安泰だ」
「あれ、なんか千石様が真っ黒に見える・・・」
「何の話をしているんだ」