第8話

14.


 そこへ、テューネとヨアヒムが戻って来た。ルニも少し遅れて着いて来ている。

「ヘイ、タマちゃん! とりま、今日泊まる家を決めた方がいんじゃね?」
「1人一家くらいあるから、好きな所に勝手に止まって良いとおも!」
「本当にカモミールって今、無人なんですね」

 そうなんよ、とテューネが頷く。
 以前はあれだけの人狼が入り切れていたのだ。無人となった家は、今や住む者もおらず寂しげに佇んでいる。

「あたし達は民宿だった家を使ってるから、それ以外ならどれでもオッケー。あ! でもフリオっちんとこの人達が泊まってたりするから、その辺は上手く折り合いつけてやってねってカンジ」

 あまりにも説明がざっくりし過ぎている。自由に出来る範囲が広すぎると逆に途方に暮れてしまう理論だ。案の定、少しばかり戸惑った顔をしたイーヴァがぽつりと呟いた。

「珠希、流石にどうしていいか分からないからお勧めの物件を紹介して貰おう」
「それがいいね。テューネさん、空いてる家でお勧めの家ってあります? あまりにもたくさんあり過ぎて、決められないんですけど」
「それな! おっけ、あたしが案内するし! ルニちゃんもお姉さんたちと一緒に来る?」
「うん、いく」

 こうして、自分とイーヴァ、それにテューネとルニを加えた謎の面子で村を闊歩する事と相成った。

 ***

 カモミール村というのは、アーティアへ来てから初めて訪れた村だ。それだけに他と比べて思い入れも深かったが、まるで思い出をそのまま切り取ってきたかのように、あの日の夜と何一つ変わっていなかった。
 そう強く感じたのは、あの日泊まっていた民宿の前を通った時である。

 あの面子の中に建築について知る者がいなかったのだろう。
 フェイロン達の戦闘のせいで壊れた壁はそのまま。人狼が暴れた爪の痕など、とにかくあの日の痕跡がそのまま放置されている。
 珠希の視線に気付いたイーヴァがテューネに訊ねた。

「これは直そうとは思わないの?」
「いや、やってみたんだけどあたし等には難易度高いわ〜。でも、フリオっち達が怪我治ったら片付け手伝ってくれる、つってたべ」
「彼等、建物を修繕する知識があるの?」
「あたしとヨアヒムよりあるくね? ま、板とか打ち付けるだけかもしれんけどね」

 ――本当に丸くなったんだな、あの人。
 一瞬とは言え誘拐されかけた過去がある、フリオ。これだけ聞いていると、とても誘拐事件を起こすような人物には思えない。洗脳説、本当に正しい可能性が出て来たな。

「あ、タマちゃーん。こっちの家とかどうよ? 陽が良く当たって良いってルーニーのアネゴが言ってたっぽ」
「ああうん、そうですね。太陽の光は重要ですよね。私はこの家を借りようかな」
「メッチャあっさり決めるじゃん!!」

 そっちが紹介してきたんだろ、と思いはしたが口にはしなかった。一方で、イーヴァは何かを考え込んでいる。

「どうしたの、イーヴァ?」
「1人一軒はあると言っていたけれど、私達はバラけない方が良いのかもしれない。同じ家に泊まった方が良いか考えているの」
「好きな家を一軒押さえておけば良いんじゃない? あーあ、いっそ私、本当に帰れないのならここに住もうかな」

 ほんの冗談のつもりだったが、イーヴァがふっと笑みを溢す。花が咲いたような、一瞬でも余所見をしていたら見逃してしまうような笑みだ。

「それもいいかもしれない。これだけ頼りになる面子が揃っていれば、何が起きても平気そう。なら、私は錬金釜が置けるような広い部屋がある家にしよう」

 何故かイーヴァまで本腰入れて家探しを始めてしまった。でもそうか、冗談とは言えそういう選択肢もある。勿論、帰宅を諦めた訳では無いが現状においてはどちらかと言うと「帰られる見込みがない」状態だ。
 ――いやでも、こんな弱気な事じゃ駄目だ……。
 一瞬だけチラついたアイディアを否定するように首を振った珠希は、家の構造について盛り上がるテューネ達との会話の輪へと戻って行った。