第4話

15.


 最早、兜を小脇に抱えたままのディートフリートが淡々と概要を説明する。

「先にも述べたが、狭い洞窟内でドラゴンの討伐を行う。つまり、少数精鋭だ。万が一にでも天井が崩れて来ないように、召喚師を控えさせている。何かあっても死ぬ事は無いはずだ、恐らくな。ダリル殿は来るとして、他、行く者はいるか?」

 俺は行こうか、とやや楽しげにフェイロンがそう言った。

「たまには身体を動かすのも悪く無い。それで、ロイ、主はどうする?」
「俺?うーん、どうしよっかな。本当は一緒に行きたいんだけど、強そうな奴等が集まってるし、足引っ張るのもなあ」
「そうか。ではダリル殿、行こうか。珠希とイーヴァは来ない方が良いだろうさ」

 おい、とコルネリアが不満そうな顔をした。

「ナチュラルにあたしをとばすな」
「はぁ?貴様は当然珠希のお守りだ。契約者もいない召喚獣なぞ、何の役にも立たぬ」
「よし、行くぞ珠希。大丈夫だ、あたしが着いてる!」

 ――何も大丈夫じゃねーよ!!
 心中で絶叫するが、一先ずは平静を保ったまま額の汗を拭い、コルネリアの発言に首を振る。冗談じゃ無い。一番非力でひ弱な自分がドラゴン討伐に同行?鴨が葱を背負った挙げ句、土鍋まで持ち込むような暴挙だ。

「ちょっと待ってよコルネリア。よーく考え直してみよ?私が一緒にいったら、人間挽肉が出来上がっちゃうでしょ。ディートフリートさんみたいな人達は落石しようがドラゴンにブン殴られようが平気みたいだけど、ホラ、私は普通の女子高生だからね?」
「じょしこうせい、って何さ。良いから行くぞ。大丈夫、あたしは簡単に還ったりしないって。お前もあの吃驚能力で自分の身くらい護れるだろ!」

 頭の中はお花畑か。なおも抵抗しようとしたが、絶妙に会話を差し込んで来たディートフリートのせいで中断させられた。

「そこ4名が着いてくるので良いんだな?見た所、人外が私以外に2人もいるようで捗りそうだ。手を借りるぞ、客人」
「待って!私!数に入って計算されてませんか、それ!」
「来ないのか?正直、魔族の力は借りておきたいところなのだが」

 グランディア同士仲良くしようぜ、とコルネリアが怪しげな笑みを浮かべる。対するディートフリートは僅かに頭を下げるのみだった。あの人狼村にいた人狼とは人格からして違うらしい。
 ともあれ、ディートフリートの中ではメンバーは4人で固定されたらしく、くるりと背を向ける。着いて来い、という事らしい。ぶっちゃけ行きたくない。

「嘘でしょ……。今メッチャ家に帰りたい。ホームシックなう」
「大丈夫だって、珠希。お前は入り口辺りにいれば良いんだよ。ようはあたしと一定距離を守ってればそれでいいんだから」
「うう……」

 まるで連行される宇宙人のように連れられていく。それをイーヴァは同情するような目で見ていた。ロイはその隣でちゃっかりお留守番ポジに立っている。
 珠希は覚悟を決めるように――否、一番安全な身の振り方を思案するように黙り込んだ。

 ***

「ダリル団長、遅かったですね!何かトラブルでも?」
「あー、いや、別に……」

 ぽっかりと口を開けた洞窟の前。
 珠希の次に苦渋の表情を浮かべたのはダリルだった。何せ、突入部隊の中には当然ながらヴィルヘルミーネもいるのだ。一方的に気まずい空気を醸し出している。
 そんな騎士団長・ヴィルヘルミーネはダリルの態度など意に介した様子も無く、自分達と出会った時とは違う歳相応の笑みを浮かべていた。一気に親近感が湧いてくる。ここで、「子供っぽい人だな」、という評価にならないのが彼女の素晴らしい所だ。
 そんな彼女の両脇にはハーゲンと、そして知らない青年が立っていた。彼はこの中では最年少らしく、その顔立ちにはやや幼さが残っている。

「ダリル殿と客人には紹介しなければなりませんね。彼はカールハインツ。私の後輩です。ダリル殿も、確かカールハインツとは会っていませんよね?」
「確かに初めて見る顔かも……いや、俺は人の顔と名前がなかなか覚えられないからな」
「ええ、存じております」

 カールハインツと商会された青年はその見た目より溌剌とした、無邪気な笑みを浮かべる。凄い、友達の家で飼われてるゴールデンレトリバーみたいだ。

「どうも!よろしくッス、元団長殿!」
「無礼な口を利くんじゃない!」
「ぐっ!?」

 ほとんど目には見えない速度でヴィルヘルミーネの鎧で覆われた肘がカールハインツの脇腹に突き刺さった。彼も鎧を着ていたはずだが、とても痛々しい音が響く。
 ――大丈夫だろうか、コレ。
 胃がメリメリと痛み出す。どうしても消え去らない不安が胃に過負荷を掛けているのは明白だった。