第11話

04.


 切迫した気配が満ちたからだろうか、それともリンレイがそもそも控えさせていたのだろうか。わらわらと有角族が4人程、彼女の加勢のため現れた。
 フェイロンよりずっと小さな角のようなものが、それでも立派に伸びているので人間ではないのは確かだ。

 最初、誰よりも何よりも早く動いたのはダリルだった。
 流石は元騎士団長だけあって、会話が不可能と理解した瞬間には剣の柄に手を掛けており、増援が現れる頃にはそれを抜いていたのを後ろから見ていたので間違いない。

「ロイ、先に出て来た連中を叩こう!」
「おっ! 分かった、了解!」

 増援を相手にする事に決めたらしいダリルはロイを伴って、今現れたばかりの有角族達へと突進して行った。正直、有角族の明確なモデルがフェイロンなのであの2人だけで相手が出来るのか心配である。
 ランドルは迷った末、ダリル達の方へと参戦した。
 残っているのはフェイロンとコルネリア、そしてバイロンだがこの面子が揃うと負ける気がしないのは何故だろう。

「――珠希」
「あ、どうしたの? イーヴァ」

 戦闘不参加意思を表明していた彼女は片手に軽く何かを握りしめているようだった。それを手渡しながら、錬金術師は小さく囁く。

「珠希、自分で決着させるつもりならこれを使って欲しい」
「何? これ」
「聞いて、一度しか使えないから。これは、持っている人が致命傷になり得る攻撃を受けた時に、攻撃した人物にそれを反射させる為のアイテム」

 何の素材なのかは分からないが、淡い桃色のビー玉のような道具に視線を落とす。よくよく見てみると、そのビー玉の中には煌めく術式が見え隠れしていた。随分と便利アイテムを進呈してくれたが、これは――

「えっと、これは私が使っても大丈夫なの?」
「ええ。珠希にはカルマが着いている。それを利用しない手は無いと思う。遠慮せず使ってくれていいからね」
「使うっていうか、勝手に使われる感じだよね」
「そう」

 ――持っておこう。
 致命傷になり得る攻撃、とイーヴァは説明した。であれば多少なりとも命の危険に晒されようとこれで未然に防げる可能性がある。

 それに、直接リンレイに狙われているのは他でもない自分自身。いつもの通り、引っ込んで出て来ない訳には行かない。自分の将来は自分の手で掴むべきだ。

「イーヴァ、私行ってくる」
「そうね。流石に観戦している訳にはいかないね」

 イーヴァに大きく手を振り、リンレイに挑みに行った面子を視界に入れる。珍しくコルネリアとフェイロンが手を組んでいるあたり、やはり苦戦する相手なのだろう。一方でバイロンはと言うと、遠巻きにその様を観察していた。
 彼の『声』はまさに凶器。おいそれと仲間を巻き込む攻撃を出来ずにいる事は戦闘思考を持たない珠希でもすんなり理解出来る。とはいえ、彼がリンレイへの攻撃を待ったしているのは意外だが。

「バイロンさん……!」

 ともあれ、急に人外2人の中に混ざるのは厳しい。まずは一応の指示をくれそうなバイロンに声を掛けた。が、彼は問いかけをする前にサラサラと字を綴る。

『危ないからイーヴァと下がっていろ』
「い、いやいや! 私の事でみんなの手を煩わせているのに、私が下がってたらマズいでしょ!」
『リンレイの目的はお前の中に居るカルマだ。今行けば集中攻撃を受ける事になる』
「そりゃまあ、そうでしょうけど……」

 ちなみに、ダリル達は軽やかに有角族を相手にしている。フェイロンの動きと比べて、キレも何もかも足りないので意外にもうちのおじいちゃんは戦闘に秀でた人物なのかもしれない。
 ともあれ、ダリル達の方に手助けは要らないようだ。人外を相手に余裕の立ち回りをしている。ランドルもまた、リンレイの相手をするのは抵抗があるようだが、その取り巻きに関しては全く躊躇いなく術を放っているので心配は無いだろう。

 その他諸々、観察を終えた珠希は再びバイロンに声を掛けた。

「いややっぱり、私の働ける場所ってここしか無いですよ。バイロンさん」
『後ろめたい気持ちは理解出来るが、こちらとしてはお前の中に居るアイリスが心配なので大人しくしていて貰えないか』
「バイロンさんだって、出られずに突っ立ったままじゃないですか」

 なおも食い下がると面に隠された顔がようやっとこちらを見た。痛いところを突かれたとでも思っているのだろうか。

『では魔法で参戦しよう。そうなら問題ないんだな、珠希?』
「良いから私はどんな感じであの2人を手助けすればいいのか、アドバイスを下さいってば……!!」

 前々から思っていたが、彼との会話は何故かいまいち噛み合わない。見ている者が違うからだろうか。