01.
蝉が鳴いている。うだるような暑さは全ての気力を削いでいくが、それでも今日は仕事の日。不平不満は言わずキリキリと働かなければ。
ギルドの窓から外を見る。高い空は雲一つない晴天だ。
「ミソラ、聞いているの?」
「き、聞いてますよコハクさん!今日も依頼があるって話でしたよね!」
「ちょっと依頼書を取って来るから、イザークと待っていて」
怪訝そうな顔をしはしたが、コハクさんはそそくさとカウンター奥へ消えて行った。頬杖を突いて大して美味しくなさそうにコーヒーを飲む相棒の姿を認め、今まであった事を思い返してみる。
主にアルデアさんと関わってから、坂を転がり落ちるような怒濤の毎日だった。しがないギルドメンバーの私が、ありとあらゆるトラブルに巻き込まれたとも言える。
「何、ボーッとして。熱中症?」
「えー、いや、今まで色々あったなあって思い出してたんだよ」
イザークさんにしては珍しく「そうだね」、と素直な言葉が返ってきた。騒がしいギルド内にいるせいか、最近の彼はすっかり毒気が抜けてきていると思う。もっとも、私に耐性がついた、という可能性もあるが。
「国で働いていた時より、色んな場所に、こんな短期間で行く事になるとは思わなかったよ」
「まあ、配達業だからね。イザークさんもそろそろ研修終わりかなあ。私としては用心棒みたいで割と助かったんだけど」
じゃあ、とカップを机に置いたイザークさんがようやく視線を私に合わせる。特に嫌味はなく、更に言うと最初に出会った時のような警戒や嫌悪も無い。ただただ平静な視線。
エーベルハルトさんが、「心の荒んでいる後輩」とイザークさんを称していたが現状の方が彼の生来の状態に近しいのかもしれない。あくまで予測だが。
相棒の変化に気を取られていると、たっぷり間を取った――というか、言葉を選んでいる様子だったイザークさんが平坦な声で続く言葉を紡ぐ。
「アレクシアさんや、うちの師匠みたいにパーティでも組んでみる?」
「え?」
「君と組むと色んな所に行けるからね。息抜きには丁度良いし、依頼の手伝いくらいなら続行してもいいよ。ま、毎日は無理だろうけど」
ふ、とイザークさんが笑う。それが存外にも柔らかな笑みだったから、私も一緒に笑みを溢した――
「あー、ちょっといいかい?」
「はい!?」
割って入ったのはコハクさん――ではなく、我等がギルドマスター・フェリアスさんだった。ただし、いつも飄々として掴み所の無い笑みは無く、代わりに少しばかりの焦燥感があるような、とにかく彼らしくない表情である。