10話 無神論者達の教会

03.相談内容


 シリルを見送ったドラホスが緩く首を振る。

「騒がしくしてすまなかった、シキミ」
「いえ……。良かったんですかね、とっても怒ってましたけど」
「いつもああなんだ。知り合いの養子だが……まあ、その知り合いとも私は折り合いが悪い。敵対者と認識されているようだ」

 ハッキリとしない言い方に深く踏み込まない方が良いと本能的に悟った。そもそも赤の他人である私が根掘り葉掘り聞いていい話題では無いだろう。
 シリルもサイモンと知り合いだったようだし、ここにドラホスを加えると教会メンバーになるはずだ。教会系列のシナリオは恐ろしいモノが多い。首を突っ込まないのが一番だ。

「――それで、ドラホスさん。私に何か相談ですか?」
「ああ。それもそうだな」

 空いた椅子に彼が座る。座高が高い。

「相談したい事なのだが、実は教会の件だ」
「教会、ですか。すいません、私、あまり行った事が無いので大したアドバイスは……」
「ああ、分かっている。君のような者は多いからな。教会は一般開放されており、信徒以外にも出入りが自由になっているのだが――その、恥ずかしい話で人の出入りが少ない。あまり一般住民が立ち寄らないのだ」
「そうなんですか」
「国から土地を借りて教会を建てている。信徒だけで使うのもどうかと思っていて、もう少し外部の人間を呼び込めないか検討をしているのだが、君からも意見を貰いたかった」
「素人目線の意見が欲しいって事ですか?」
「そうだ。勿論、相談室の業務とは言い難いから相応の報酬を支払おう」
「ああいえ、報酬は結構です。相談員としてのお給料はギルドマスターからきちんと頂いていますから。それに、何やかんやドラホスさんには助けられましたからね」

 主にクエストへ同行してくれたり、聖水を分けてくれたり、その他にも色々と世話を焼いてくれた。感謝しか無い。

「ただ私、素人以前に教会へ行った事すら無いので一旦様子を見に行っても良いですか? 現状では意見も何もあったものでは……」
「分かった。手間を掛けさせてすまない。良ければ私が案内しよう、いつがいいだろうか?」
「あ。今からとかでも大丈夫ですよ。基本的に予定は急に入る行き当たりばったりの生活を送っているので」

 丁度良いので今から教会へお邪魔する事になった。

 ***

 教会とは祈りを捧げる場所である。祈りを捧げる場所があるという事は、祈りを捧げる対象がいるという事。
 サツギルのゲーム内ではあまり触れられなかったが、どうもこの『祈りを捧げる対象』――実際に存在しているようだ。あまりにも現実味を帯びているというか、どこそこに存在しているという情報が濃いというか。
 捜せば実在している可能性がごくごく僅かにある、そんな存在。神様だと言う者もいれば秩序を司る者だという信者もいる。こんなに教会について勉強したのはこの世界へ来たと気付いてから初めてだ。

 ゲームでの教会なぞ、ゴースト系魔物を討伐する為に聖水を無償で譲って貰う為に存在している場所だった。かくいう私もゴースト系魔物の討伐イベント時は毎時間通うレベルで通い詰めたものだ。今思えば良い思い出である。
 一応、ドラホスやサイモンを攻略する時は必須イベントで足を運ぶが濃密な宗教描写はほぼ無いと言っていい。彼等は教義を信者でない者に押し付けるタイプではないからだ。

 ともあれ、そんな巨大組織の権力的象徴である教会を前にした私は完全に萎縮して足を止めた。隣にはここまで案内してくれたドラホスがいるのだが、止まってしまった私に対し疑問そうな顔をしている。

「――ドラホスさん、ドラホスさん」
「どうした?」
「入り口ってここがですか?」
「ああ」

 ――もう既に入り辛い!!
 聳えるは巨大な木製の扉。恐らく一人で開閉するのは難しいだろう。重厚なそれには目を奪われる精密な意匠が施されている。まるで豪邸への出入り口だ。加えて教会そのものにも威圧感がある。見下ろされる形の白く荘厳なそれは、一般人の警戒心を煽るにはあまりにも最適だ。
 更に言うと信者と思わしき者達は全員、白っぽい服装をしている。正装だ。ふらっと立ち寄った教会無関係者はそれだけで回れ右をするに違いない。

 中を見ていないのでハッキリとは断言出来ないが、十中八九この出入り口に問題がある。中へ入れてしまえば後はドラホスのような、祈りを捧げている神職者が迷える子羊を導いてくれるだろうが、中へ入って貰えないのであれば導きようがないだろう。
 つまりこの敷居さえ越えさせてしまえばこっちのものだ。優しく優しく神前へ導いてあげればいいのだから。

「えーっと、言いたい事はたくさんあるんですけど、一旦中を見て他に何も無ければ所感を伝えますね」
「承知した」