7話 アイドルと身代わり人形

03.執務室への呼び出し


 あまりにも非現実過ぎる取り合わせに、胸を押さえながら入室した。あまりにも酷い顔をしていたのだろうか、「わあ!」とリリカルが声を上げる。

「大丈夫、シキミ? 顔色がとっても悪いけれど!」
「いやあの、ちょっと緊張して……」
「そうなんだ! 大丈夫だよ、私がついているからね!」

 ――あなたがいるから緊張しているんだけども。
 あまりにも心臓に悪い面子をぐるりと見回し、心中でこっそり溜息を吐く。不意討ちでこういう事をしてくるの本当に止めて欲しい。私などしがない相談室のモブ。サツギルの登場人物達に囲まれれば過呼吸待ったなしだ。

 しかし冷静さを徐々に取り戻した脳味噌は、やはり冷静に現状についての予測を弾き出した。リリカル-Ⅱがいるという事はつまり、彼女の護衛の件で呼び出されたのだろう。面子の謎さと、私の場違い感には目を瞑るとして。

 改めて一同を見回したギルドマスターが快活に口を開く。よくこの威圧感の中で気丈且つ平常通りに振る舞えるな、と思ったがそういえばギルマスその人も得体の知れない人物で有名だった。

「よーし、全員揃ったね! 今日君達を呼び出したのは~、リリカルの護衛についてのクエストなんだよ」
「護衛?」
「そうそう~。次のライブに犯罪予告の手紙が届いているらしくて~」
「自分の身くらい自分で守れ。お前それでもギルドの一員か?」

 険しい顔で集まった異議諸共バッサリ斬り捨てたのはオルヴァーだった。実力主義者の言う事はやはり一味違う。
 一方で糾弾されたリリカルは輝く営業スマイルを浮かべている。状況も相俟って、診ようによってはオルヴァーを煽っているように見えてしまうから肝が冷えた。

「確かに、私自身の身は私で護れるよ! でも、ファンのみんなは一般人だから。私一人じゃ手が回らないし、ライブを成功させる為にも必ず犯人を捕まえないと! チケット代ももう払い込んで貰ってるから中止したくないし!」
「おや、なかなか現実的な話になってきましたね」

 可笑しそうに言ったのはルグレだ。それまで全てに対して何の感心も抱いていなかったであろう彼の双眸はようやっと渦中の人物であるリリカルへと向けられている。今の彼女の発言で僅かながら興味を惹かれたのだろう。
 ルグレが口を開いたからか、2人でセット扱いされているアリシアもまた口を開く。彼女は最初からリリカルのクエストに興味を持っていたようで、今でもまだ興味津々といった体だ。

「なんでこの面子を集めた訳? いやさ、私達4人はパーティ組んでるし分かるけど、相談室の管理人に至っては現場を間違えてるとしか思えないわ」
「ちゃんと厳選した面子だよ! 意味はちゃんとある!」
「ふうん、聞かせてよ。それ」

 アリシアの挑発めいた発言にも微動だにせず、リリカルは言われた通り集めた面子の招集理由を説明し始めた。

「まずシキミだけど、彼女は私の事をよーく知ってるから相談役として呼んだよ! アリシアに関しては私と顔が64%似ているから選出したの! メイク次第では私と入れ替わる事が可能だったから! 残りはアリシアと仲の良い強い人達だから選んだよ!」
「64%似てるとか大分似てるな。ああそうか、私もお前も、中性的だからか。顔立ちが」
「人間の美しい顔を突き詰めたら中性的な顔になるから仕方無いね!」

 まるで素晴らしくナルシストめいた発言だったが、リリカルの語り口調が純然たる事実を語るようなそれだったので、変ないやらしさは無かった。まるで数学の方程式を説明されているような気持ちになっただけである。
 ただ、1つだけ言いたい事がある。このメンバーで私如きが発言するのは憚られるが、今空気を読んで黙っていれば取り返しの付かない事になるだろう。

「あの、すいません! このメンバーに私ってどう考えても要らないみたいなので! 辞退させて頂いてもよろしいでしょうか!!」

 えー、とギルドマスターが唇を尖らせる。

「駄目だよ、強制参加クエストだからね~」

 私どころか、場にいた全員が辞退出来ない事態となっていた。絶望しかない。
 そんな私の事など気にした様子も無いリリカルが明るく話を前へ前へと進める。場の空気を物ともしない姿勢だけは評価に価するだろう。

「みんなを組み込んだ作戦をもう既に考えてるんだ!」
「ふぅん、内容は?」

 ノリノリのアリシアに促され、現役アイドルは満面の笑みで頷いた。一見すると凸凹コンビだが、実はこの2人案外相性が良いのかもしれない。