5話 私弱すぎ!強化大作戦!!

10.オスカーの手解き


「では、早速特訓内容の話をしよう!」
「はい! お願いします!」

 雰囲気が変わったのを感じ取り、背筋をピンと伸ばす。正直、ラヴァ先生以上にオスカーは不安だ。弟子を数名持っているとはいえ、彼の弟子は「元からそれなりに才能がある方々」である。つまり、ズブズブのド素人ではない。
 対して私はド素人の見本のようなド素人だ。刃物なんて包丁以外に持った事が無い上、シキミだった時の記憶と言えば学校と家を往復し、ゲームをする毎日。
 そんな私に、この筋肉ダルマみたいなオジサマの訓練をこなせるのだろうか。最悪、一瞬で沈む可能性がある。

 生唾を飲み込み、オスカー先生の続く言葉を待つ。が、私のような小娘と老獪な彼の考え方は基本からまず違った。

「うむ、昨日会った折に考えたのだが、お前はまず筋肉量が全く足りん。それでは長時間、得物を振り回す事は出来んだろう」
「うーん、そうですね。すぐ筋肉痛になりそうですし、腕が上がらなくなりそうです」
「そして恐らく、その薄い体付きでは体力もまるで無いだろう」
「よ、よく分かりましたね……!!」
「これでも多くの弟子を育てて来た。お前のように、まるで身体を動かす事に慣れていなさそうな者は久々だが……。が、ここから導き出される答えは一つだ!」
「ま、まさか筋トレ!?」
「その通り! ラヴァは恐らく宿題なぞ出さなかっただろうから、儂からはその宿題を出させて貰う。毎日のスケジュールを組んでおいた。そのスケジュールを満たした後、儂から剣の使い方を教えよう」
「私が成果を満たしてから、順次色々教えてくださる、という事ですね!」
「うむうむ! そもそも、教えられる段階に到達していないからな」

 1ヶ月の使い方を上手い事活用してきたな、と私は冷静になる。期間が1ヶ月なのではなく、一緒にトレーニングした日数が31日。であれば、かなり実用的且つ本格的に私という小娘を育てようとしてくれているようだ。

「えーっと、じゃあ今日は何をしましょうか? 打ち合わせだけで解散ですか?」
「いや! そもそも筋トレのやり方も知らなさそうなのでな、儂と一緒にレッツ・筋トレだ!」
「成る程!!」

 あまりにもしっかりした練習内容に、段々オスカーは全て正しい事を言っているような錯覚さえ覚える。
 それにしても私、筋トレ続くだろうか? でもこれだけ私の事を考えてくれている師範代を前に、サボりという不謹慎な真似は出来ない。彼の指導を受けたい者は多くいるのだ。それを差し置いて、私がサボり。ないない、絶対に無い。

「シキミ? では、身体を動かせる場所へ移動しようか」
「了解!」
「良い返事だ! 行くぞ、トレーニングの地へ!!」
「はい!!!」

 ***

 私達が移動して来たのは先日のフリースペースだった。相変わらず使う人がいないのか、ガランとしている。

「さて、まずは筋トレの仕方よな。宿題を出してもやり方が分からねば、どうしようもない」
「すいません、お手間掛けてしまって」
「よいよい。たまには手の掛かる生徒も悪くは無い」

 何から教えるか、と真剣な顔をしたオスカーは1枚の紙に目を落としている。明らかに何らかの――というか、私のトレーニングスケジュールのメモだ。

「一番難しいのは――腕立てか? いや、もういっそ儂の弟子等に1日数時間、面倒を見させるか……?」
「それは流石にお弟子さん達に申し訳無いので、良いです」
「ううむ、頭を使うものよな」

 オスカーの弟子達は基本的にはいい人達だが、強さに関してかなりストイックだ。私の相手をしたところで、彼等の腕が上達する訳では無いので決していい顔はしないだろう。

「えぇっと、取り敢えずじゃあ、私は今日ガンバって筋トレ方を覚えるので、上手くいかなかったらその時に考えるというのはどうでしょうか?」
「それもそうか。如何に身体を動かし慣れていないとはいえ、物覚えの方は良い可能性もある。うむ、お前の言う通りだ。まずは身体を動かすとしよう!」

 ――……よーし、死ぬ気で覚えるぞ!
 自ら墓穴を掘った事に気付いたが後の祭り。オスカーの手を煩わせないよう、出来るだけこの時間で筋トレ独り立ち出来るよう頑張るとしよう。尤も、出来る自信は微塵も無い訳だが。しかし、時に根性は理論を越えるとも言うしやってみるだけやってみなければ。