08.討伐のいろは
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私は早々に買い物を終えて、ベティとデレクが座る机へと駆け足で戻った。手に持っている武器を見たベティが困惑の表情を浮かべる。
「えっ、その武器、正気!?」
視線は持っている剣と魔道書に注がれている。確かに彼女が言う事は尤もだ。尤もだが、プレイヤーだった頃、周囲に居た他のプレイヤーはもっと凄かった。
例えば銃と盾。ステータスを攻撃と魔法に極振りした結果、防御とHPが障子紙仕様となってしまった為、盾を持たせたらしい。そもそも銃職が後衛なので脅威なのは後衛にまで被弾させる事が出来る魔法と銃火器のみ。それの被弾を避ける為、片手に盾を持たせたそうだ。
そして次に剣と銃。攻撃力を極限まで振った友人によると、後衛の魔道職が鬱陶しいので先に迅速な処理をしたかったから、後衛を狙える銃を装備させたらしい。意味が分からない。
結論、みんなトチ狂っている。
しかも、ヒロインで無ければ武器2つ持ちは出来ないかと思ったが、普通に持てた。そりゃそうだ。だってゲームの世界ではないのだから。
苦笑したデレクが首を振る。
「いや、そういうスタイルなら別に良いんじゃないのか?」
「そりゃそうだけどさ……。ちょっとよく分かんないや。私。それでね、シキミ。あんたが武器を見に行ってる間に、私とデレクでめぼしいクエストを持って来ておいたけど、これでいい?」
ベティがクエストの依頼用紙を机の上に置く。私はそれを受け取ると、中身を読み込んだ。それはもう、目を皿のようにして読み込んだ。
王国郊外の林にて発生した魔狼の討伐 Lv.7、と記載があった。また、その下には「数名で討伐可能」の文字もある。
このクエストはストーリーの序盤も序盤で選べる、レベリングクエストのようなものだ。かなり簡単なクエストに分類され、終盤では全く選ぶ事の無いクエスト。
このクエストで問題無いだろう。現状はこういったレベルのクエストしか受けられないし。
ただ、簡単なクエストを選んだ時にありがちな事がある。
クエストの難易度はたまに途中で変更され、高くなる事がある。開けてみないと実際にはどうなるか分からない、それがクエストというものだ。
万が一、変動イベントが発生した場合はすぐギルドに伝わるので耐久戦となる。救援が駆け付けるまで逃げる、防ぐ、という行動を余儀なくされるのだ。
「シキミ? 他のにする?」
「あ、いや。これで良いと思う。早速出掛けようか」
「おうよ! さあデレク、行こうか!」
ああ、と眼を細めたデレクが立ち上がる。何て眩しい2人組なんだ。
***
郊外の林にやって来た。爽やかな風が吹き抜ける、のびのびとした気持ちになれる場所だ。
反面、昼間でも薄暗く犯罪多発地帯としても有名な場所。観光地というか、避暑地とかで売れそうな土地なのに勿体ない事である。
サツギルでも不穏なイベントが発生した思い出深い林を眺めていると、不意にデレクが周囲を見回した。
「当然の事だが、まず獲物を探さなきゃだな……。しかし、どこに居るんだ? 相手は獣型の魔物なんだから、止まっているはずも無いしなあ」
「あ、それなんですけど」
すかさず私は口を挟んだ。これがサツギルのよく出来ているところで、魔物の種類によって簡単な罠を張れたり、誘き出しが可能なのだ。今回は魔狼なので、それらを誘き出す為の必要なアイテムも購買で手に入れておいた。
「魔狼は生肉とかを焼く臭いで誘き出す事が出来ます」
「おお! そうなのか?」
「はい。ですので、さっき購買へ行った時に、肉、買っておきましたよ!」
「さっすが相談室の人! 後で報酬から肉代は天引きしておいてくれよな!」
デレクとベティにやんややんやと持ち上げられる。うんうん、ヒロインの動きはまさにサツギル初心者プレイヤーといった感じだ。現実世界で周回など出来る訳も無いので、当然と言えば当然だが。
やることが決まった2人の動きは迅速だった。野営などした事も無い私をそのままに、早々にプチキャンプファイアーでも始めんばかりの組木を造り始める。その素早さたるや、目を見張る程だ。
あっという間にそれを組み立てると、ベティが指を鳴らす。途端、その中心に煌々と燃える炎が灯った。
「よし、ベティが火加減を調節している間に俺達は肉に串を刺そう。これ、魔物に食われたりしなければ後で食べられるな!」
「串は流石に無いんですけど……」
「木ならたくさんあるんだ。枝の1本や2本、折っても問題無いさ!」
――うわあ、とってもサバイバルだなあ……。
意気揚々と木の枝を集め始めるデレクを見て、作文のような感想が脳裏を駆け巡った。