07.戦闘スタイル
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翌朝。私は通常通り、9時にはギルドに到着していた。クエストを行うメンバーとは異なり、事務員は定時制だ。つまり指定された時間には職場に居なければならない。
とは言っても日本と違って遅刻などに関する規則はかなり緩い。9時の段階で事務員が誰もいなかった、なんて事にならない限りは遅刻しようが何しようが注意はされないだろう。
「おはよう! シキミ、いつも早いな!」
「……うえっ!? お、はよう」
出待ち再び。
ギルドに到着した瞬間、どこからともなく現れたベティが元気よく朝の挨拶をしてきた。朝方の人間過ぎる。それに、誰かのシナリオでも朝は得意だと明言していた気がする。
「それでさ、朝から急に悪いんだけどデレクと話を付けた結果、今日からちょいちょいシキミもクエストに誘う事にしたよ。身体を鍛えるんだっけ? なら手っ取り早く、魔物退治が良いかな?」
「おおー、もう話付けてくれたんだ。ありがとう。急に我が儘言ってすいません……」
「朝から辛気くさい事言うなって!」
おーい、とこれまた聞き覚えのある声が耳朶を打った。顔を上げると、ベティの背後からデレクが現れる。
「おはよう。なかなか来ないからどうしたのかと思ったけど、どこか座るか?」
「お、デレクじゃん。ほら、そっちが今日教えた相談室のシキミ」
「ああ、君が? 俺はデレク。今日からよろしく」
「ど、どうも」
何て爽やかな好青年スマイルなのだろうか。微笑み掛けられた瞬間、両目が光で潰れるかと思った。サツギルの絵師さんがかなり実力派だった事もあるが、現実で見るとヒロインもデレクも顔の造形が美し過ぎる。
朝から神々しさで、危うく昇天するところだった。2人のツーショットを脳に刻みつつ、感無量で胸を押さえる。くそう、私の青春サツギルめ。まさかこんな所でも不整脈攻撃を仕掛けてくるとは。
感動に打ち震えていると、デレクが困惑したように首を傾げる。
「え? 何だか苦しそうだけど、これ大丈夫か?」
「持病らしいよ」
「クエストに行って良いのか!?」
「本人が行く、つってんだから大丈夫でしょ」
「そんな安易な……!」
慌てて介抱しようとしてくるデレクをやんわり押し返す。そういうシチュエーションは私ではなく、ベティに適用してくれ。是非。
取り敢えずロビーの空いている席へ移動。突っ立ったまま話していては、通行人に迷惑だ。それぞれが席に着いたところで、デレクが訊ねてくる。
「色々と聞きたい事があるんだけど、まず、シキミはどんな戦闘スタイルなんだ? ベティとは何度も組んでいるからある程度、立ち回りも分かるけどシキミとは初めてクエストに行くからな。念の為教えて貰って良いか?」
「えっ、戦闘スタイル……」
――マズい。全然考えて無かった……!!
そういえばそうだ。そもそも私は戦えるのだろうか? ゲームはボタンを押しさえすれば、何らかの攻撃が出来るが、残念な事にこれは現実だ。ボタンというコマンド指示の指標は無い。
冷や汗を掻きつつ、口から先に生まれたと評判の私は咄嗟に結論を先延ばしに出来る答えを口にしていた。
「すいません、長らくクエストなんて行ってないんで、今手持ち武器が無くて……。ちょっと武器屋で購入して来て良いですか? 武器が無いと気が気じゃ無いっていうか」
「そ、そうか。武器、無いのか……」
呆然とするデレクを余所に、ベティからゴーサインが出た。
「あっはっは、意外とドジなんだね。シキミ! 早く買って来なよ、待ってるからさ!」
「あ、はーい。行って来まーす……」
狼狽えているデレクを見ないようにして、私はそそくさと立ち上がった。思い返すのはゲーム機を握っていた時のヒロインのステ割りだ。どんな風に育成してたっけな? それに寄せた方がやりやすい気がする。
足取り真っ直ぐ、ギルド内にある購買へ突き進む。
ステータスは恐らく攻撃こそ防御思想だったので、攻撃に振り切っていた気がする。更に魔法のエフェクトが好きだったので、攻撃と魔法には必ずステータスを割り振っていた。
いや待て、変な武器の装備のさせ方もロマンだとか言って魔道書と剣を持たせてた気がするぞ。ヒロインに変な武器を持たせて個性を出してやれ、とか安易な事を考えていたはずだ。
あと、武器には特別な専用武器なるものが存在する。何でもカミサマから切り取った素材で作った剣とか杖とか。手に入れるのに苦労したが、それが手に入るまでの武器は全て繋ぎと同じ。
よって、購買に売っている標準な武器で私には事足りるはずだ。