1話 相談室開設!

02.ヒロインとの出会い


 とにかく、縁結びキューピッドだかお見合いおばさんだかになる為には準備が必要だ。何せ私は所謂モブ女。こんな女が既存の顔面偏差値が高いキャラクターもとい人物達に絡むのはハードルが高すぎる。
 であれば、相談できる環境作りから始めなければならないだろう。
 なに、心配する事は無い。アテはあるし、多分断られる事も無いはずだ。ようは仕事に使う部屋を1つ借りれば良いのだから。

 ――ギルドのマスターに相談しよう。
 サツギルに出て来るギルドのマスターは面白い事好きだ。後先考えず面白いと感じればイエスとゴーサインを出してくれる最高の御仁である。事情を説明して新しいサービスを始める為、一室貸してくれと言えば貸してくれるに違いない。
 そうと決まれば早速、直談判しに行こう。
 私は軽やかに医務室のベッドから抜け出し、床に足を付けた。

 ***

 マスターの執務室へ行く為にはロビーを通らなければならない。またボールなどが飛んで来たりしないか細心の注意をしつつ、歩を進めていると目の前に見知った顔が洗われた。

「よお。ちょっと今良いか? 少し用事があるんだけど」
「えっ、あ……!!」

 思わず言葉に詰まる。同時に胸も詰まった。口をポカンと開けたまま、突如現れた彼女を見つめる。それは私が一方的に見知った顔だ。
 サツギルのヒロイン。
 焦げ茶で軽くウェイブの掛かった長髪をハーフアップにしている。エメラルドグリーンの瞳に、スッと視界に入ってくる整った目鼻立ち。間違いない。ぶっちゃけ攻略対象よりよく見た顔だ。

 爆発的に上昇したテンションを無理矢理抑え込む。いけない、ここで急に半狂乱になってはただの不審者だ。
 動悸を押さえつつ、無理矢理平静を装う。

「えーっと、どうかしたのかな?」
「ああうん。さっきさ、ボールが頭に当たった人だよな。さっきから挙動不審だけど、もう起きて来て平気?」
「う、ん。平気平気。大丈夫です」
「そう? で、これ。落としたみたいだから拾っておいたよ」

 渡されたのは前世でよく見たダブレットのような物だった。ただ、前世の世界のように科学的な技術は発展していない世界。魔法で動いているボードなのだろう。全く記憶に無いが、私の物らしいのでお礼を言って受け取る。

「ありがとう。えーっと、お名前は何だったっけ?」
「私? 私はベティ。ま、覚えてないのも当然か。ついこの間ギルドに加入したばっかりだしさ。あれ、もう2ヶ月前くらいの話だっけ?」
「へえ、そ、そうなんだ……!」

 ベティと言うのはヒロインのデフォルトネームだ。
 それを思い出しつつ、私はサツギルのヒロインについて思いを馳せる。彼女は大人しい系のヒロインではなく、ガンガン戦闘にも出る行動的なヒロインだ。ゲームにRPG要素があり、レベリングの要素がある以上、大人しいヒロインではゲームの主役になれなかったものと思われる。
 個人的な意見だが、サツギルで彼女以外にヒロインを出来るキャラは居ないと勝手に思っている程だ。

 あまりにも見過ぎていたのだろうか。ベティは僅かに首を傾げる。

「うん? 私の顔に何か付いてる?」
「あ、いや、そういう訳じゃ。私物を拾ってくれた人の顔を覚えようと思っただけ」
「そう。それでさあ――」

 まだ何か話があるのか。そう思っていると、ベティを呼ぶ声が少し離れた所から聞こえて来た。

「ベティ。用事は終わったか? そろそろクエストを選ぼう」

 ―― コ イ ツ は !!
 動悸が更に激しくなる。彼もまたよく見た顔だ。本当に想像している人物なのか確認する為、現れた彼をまじまじと観察する。

 やはり、彼はデレクだ。黒い短髪に同じ色の瞳。どことなく柔らかな物腰。
 非常に芯が強い人物で、サツギルではパケ絵に大きく描かれたメインルートのような扱いの人物だ。色んなシナリオを攻略しているが、デレクとヒロインのシナリオが一番通常の恋愛ゲームだったと言える。
 彼だけをプレイしたプレイヤーは、サツギルの何が伝説として乙女ゲーマーに語り継がれているのか理解出来ない事だろう。
 そしてデレクはヒロインのレベル関係無く、ギルドのクエストに着いてきてくれる。非常に役に立つ男なのだ。
 私は確か、最初に彼のシナリオをクリアした。

 ――この2人、もうパートナー関係になっているのかな?
 サツギルでパートナーとして選べる相手は1人だ。そして、ゲームの中では一度設定すると解消が出来ない。彼等はどうなのだろう。

 ぼんやり考えていると、デレクが申し訳無さそうに微笑んだ。

「話してるところ悪い。ベティはもう借りて行っていいか?」
「あっはい、落とし物を拾って貰っただけだから。お気遣い無く」
「そうだったのか。じゃあ、また今度」
「お前も仕事、頑張れよ!」

 にこやかにそう言った2人が話し合いながらその場から離れて行く。なんてこったい、尊過ぎて危うく口から小僧六腑全て吐き出すところだった。