ドキドキ☆百物語縮小版

第0話


 締め切られたカーテンと、閉じられたドア。心研部の部室は現在、真夜中のように真っ暗な状態だ。誰かが空気を読まずにドアを開けて入って来たりしない限りは、ここは光が一部も差さない、まさに真っ暗闇と言って差し支えないはずだ。
 パチリ、軽い音と共に懐中電灯が点けられる。それを持っているのは部長の月原和幸で彼の眼前には心研部の面々が並んでいた。

「はい、じゃあ説明するね。その前に、ローソクはちゃんとみんな持っているかな?一応、部屋の隅に水の入ったバケツを置いておいたから、何かあったら使ってね。高校生にもなって百物語中に火事だなんて、笑えないどころか進学に響いちゃうし」

 一同が神妙な顔をして頷く中、副部長の鹿目徳仁だけがいつも通り変わらない態度でライターを取り出した。

「今火を着けると月原の説明が長引いた場合、蝋燭が保たない可能性がある。ライターは俺が持っているから、話が終わり次第回そう」
「じゃあ、説明するよ。百物語っていうのは本来ローソク100本用意して話をしたら消して行く、って話なんだけど普通に時間もローソクもないから1人1話ずつ話してくれ」

 ちょっといいかしら、声を上げたのは仙波珠代だ。彼女の右腕には偶然位置が隣になった芳垣光がしがみついている。怖いのだろうか、すでに震えているようだった。

「彼、もう怖がっていてとてもじゃないけれど蝋燭なんて持たせられないわ。何かあったら蝋燭を捨てて逃げ出しそうだもの。燭台とかないかしら」
「うーん、燭台はちょっと・・・無いねぇ・・・」
「仙波さん。ちょっとロウば垂らして、それでローソクば固定せんね。したら倒れんやろ」

 上鶴清澄の言葉に難色を示したのは須藤司だった。彼は難しい顔をしてその提案は受け入れられない、と彼にしては珍しい正論を吐き出す。

「床に蝋が着いてしまうだろう。掃除するのが大変じゃないか」
「というか、清澄くんってば火の扱いテクリ過ぎじゃないかな・・・」

 ああそうだ、とそこで葉木壱花が何か思いついたように手を打った。彼女は懐中電灯を引ったくると自分の鞄の方へ走っていき、透明な容器を持って帰って来た。

「これに水を汲んで、芳垣くんの前に置いておけばいいんじゃないかな。もし芳垣くんが逃げ出したら蝋燭はコレに放り込むって事で」
「うう、すんません、葉木先輩・・・」
「解決したかな?で、ルール説明途中なんだけど話していい?」

 懐中電灯を取り返した月原はそのまま鹿目の手元を照らした。もう火を着けていていい、という彼なりの気遣いである。

「ただ怖い話するだけじゃあ、もう僕達にとってはツマラナイだろうから、実話にしよう。もう10何年生きているんだから不思議な話の一つや二つはあるだろう?」

 反対意見は上がらない。それを確認した月原は最後にこう述べた。

「じゃあ、話終わったらローソクは必ず消してね。順番は・・・そうだな、ジャンケンで決めようか」