第6話

11.アイテムの数と入手経路


 しかし、そこは元帝国顧問魔道士というだけあって、迅速な行動だった。援護用の召喚獣を直ぐさま召喚に移る。彼女も流石に一人でバルバラ&クラーラに加え、チェスターまで相手にするつもりはないようだ。どうにかブルーノを確保しようと躍起である。

「させないわよ!」
「召喚用ツールを変えました。貴方の言葉には従えそうにありません」

 挑発的にそう言ったイアンの手には例の箱庭が乗っている。そこから瞬く間に術式が広がり、そして次の瞬間にはキメラが1体にレイスを1体喚び出していた。ゲーアハルトの召喚獣セットに合わせたのだろうか。

 飼い主が何らかの指示を出すと、喚び出された獣達は素直にゲーアハルトのそれへと襲い掛かって行った。リカルデが非難がましい声を上げたが、残念な事に巨大生物達の足音でまったく聞こえない。
 状況を瞬時に把握したブルーノが騎士の彼女に手を振って別れた。そのまま一直線にチェスターへと向かって行く。真夜中の吸血鬼とは戦いたくないと言っていたので、日が落ちる前に処理したいのだろう。

「……何とか釣り合いがとれそうだな。このままだったら、俺は八つ裂きにされてた」
「ジャック、貴方最近、身の程というものを学習したようですね。そのまま精進なさって下さい」
「あんたは早く人の心を取り戻してくれよ、本当」

 チェスターが戯れにブルーノの相手を始めた事に対し、クラーラだけが不満そうだ。そっちは放っておいていいから、こちらをどうにかしてくれと言わんばかりの顔である。

「さあ、我々も始めましょうか! ああ、楽しみですね! 私を殺す為の武器、揃えて来ているのでしょう? 時間が押していますので、早めのご披露を期待していますよ。バルバラ大佐」
「良く喋る口ね……。だけど、今更お前の口車には乗らないわ」
「頭を冷やされたのですね。それも、結構な事です」

 くすくす、と笑みを浮かべるイアンを睨み付けるバルバラ。先程冷静になった、とイアンは形容したがそれは気の利いた皮肉だったのだろう。前回、前々回と同様。彼女に冷静さは欠片も無い。
 すっ、とクラーラがその睨み合いに割り込んだ。眉間に深く皺を寄せているのが見える。

「バルバラ様、彼女の言葉は毒です。耳を貸しては――」
「分かっているわ……ッ!!」
「……失礼、致しました」

 ――何だか分からないが、今日も今日とて苛ついている。
 これならば、イアンが今回も上手い事いなしてくれそうではあるが、例の『武器』とやらも気に掛けるべきだ。そういう自信満々に匂わせてくる切り札、というのは十中八九面倒なそれに違い無い。

 イアンが早々に術式を編み始める。お喋りに興じるくせに、攻撃を仕掛けるのはいつも彼女からだな。ぼんやりとそう思った。

「させるか! バルバラ様、わたくしが止めます!」

 付与術式が掛かったままのクラーラが力強く地を蹴った。ふ、とイアンが不敵な笑みを浮かべ、左足で石畳を踵から叩く。
 それは儀式魔法の一種だったのだろう。踏みしめた踵を軸に一瞬で金色の術式が奔り、カウンターの要領でクラーラを迎え撃つ。ただでさえ寒い土地だと言うのに、彼女が発動させた氷魔法のせいで若干気温が下がった気がする。
 正面から向かって来る敵を氷付けにする勢いで宙へと伸びた輝かしい氷は、ものの見事にトラップに嵌ったクラーラの左足を氷付けにし、地面に縫い止めていた。

 好かさずバルバラがレイピアを片手に詰め寄り、クラーラを氷の拘束から解放する。素足に赤い鮮血を滲ませながら、侍女は苦い顔で数歩後退った。

「も、申し訳御座いません……」
「しっかり前を見て頂戴。相手はあの怪物よ」

 1本だけ杖を所持していたイアンが、ローブの中から更に杖を取りだした。ショップでも見た事の無いような、スノードームのような物体が杖の先に着いた、白い杖だ。恐らく、オーダーメイド品。スノードームの中では透明な水がちゃぷん、と音を立てている。
 ――と、そのドーム内部に溜まっていた水が全く唐突に凝固した。

「うっ……!? クラーラ! 魔法武器よ、下がりなさい!!」
「え? えっ……?」

 主人に命じられるがまま、クラーラが更にその場から飛び退った。先程まで彼女が立っていた場所に氷の槍が突き刺さる。

「な、何だ? 呪文も術式も遣わずに……?」
「これは内部魔法組み込み式の武器です。一つの魔法しか使えませんが、この通り。発動が早いので対前衛戦で重宝するのですよ」
「あんた何でも持ってるな」
「まあ。どうやって手に入れたのかは……大半が不明ですが」