第10話

09.ルーファスによる分類


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「な、なんだこれは……!!」

 大きく歪んだ空、黄色がかった視界。夢の中にいるような歪な感覚に、リカルデは顔をしかめた。
 風景そのものは帝都のそれであるが、とにかく現実から乖離した風景と言える。しかし、思考はブルーノが呟いた驚愕の事実によって一度消し飛んだ。

「……ジャックとイアンがいねぇな」
「なに!? イアン殿はともかく、ジャックもいないのか?」

 一人で放り出されようと生き残りそうな魔道士はともかく、ジャックは自分と同じく人外連中に比べて貧弱だ。ここには居ないが、イアンとは一緒にいてくれるといいのだが。
 仲間の安否を気にしていると、やれやれと言わんばかりにチェスターが首を振り、肩を竦めた。

「分断されたか。この分け方にどういう意図があるのかは分からないが……」
「これは結界か? 俺は魔法とか全然使わねぇからな」
「結界は結界だが、こんなもの維持だけで魔力が枯渇するな。さて、どんなトリックがあるのやら」
「うちのイアンじゃねぇなら、やらかしたのは――ルーファスさんだろうけどな」
「ブルーノ、私が言うのもなんだが、こういう手合いは噂をすれば――」

 件の人物についての話を何とはなしに遮ろうとしたその瞬間だった。お約束かのように、急に目の前にルーファスその人がパッと出現したのは。

「やあやあ、呼んだかな? そう、この結界を張ったのは僕だよ」
「でしょうね」

 冷たくそう応じるブルーノに対し、ルーファスは白々しい演技掛かった仕草で人差し指を立てた。

「それで、イアンとジャックだけをこっちで引き取った理由だったね」
「や、別に聞く程の事じゃないんですけど」
「いやね、ほら、魔法は抜本的に言うと範囲攻撃じゃないか。こう、処分するのと保護するのをまとめて置いておくとやりづらいだろう?」

 ――つまりここにいる私達は『処分の対象』という事か。
 すぐに合点が行ったリカルデはぎょっとして身構えた。それはつまり、オブラートに包まない言い方をすれば殺処分という事になる。

「年功序列世界だからといって、はいそうですか、と死ぬ訳にはいきません。抵抗させて貰いますよ、ルーファスさん」
「そうだよね、そうなるよね」

 目の前に居たルーファスが僅かに笑い声を漏らす。その瞬間、空間の中に溶けるように消えてしまった。チェスターが舌打ちする。

「移動されたな。さて、どこへ行ったか。建物が邪魔だ、探す為に焼き払うか?」
「待てよチェスター。苛々したらルーファスさんの思う壺だぜ。こんだけ色々魔法使ってんだ、魔力が枯渇して結界が消えるのを待ちゃいい」
「そう上手く行くか? 姿を消したという事は、見えない場所から魔法を撃ち込んで来るという事だぞ」
「耐えきれば勝ちだぜ。というか、リカルデ! 危ないからあんまり離れるなよ。……あ、考えて無かったがリカルデはどうすっかな。ルーファスさんの適当に撃った魔法でも、当たれば即死だぞ」
「ええ……」

 人外2人に比べてか弱い存在であるリカルデは分かりやすく、顔を青くした。

「それは良いが、向こうの準備が先に整ったようだぞ」
「えっ、え、どうするんだ、チェスター殿」
「まあ、防ぐしか無いな」

 何と頼もしいのだろうか。伊達に帝国の大佐地位に座っていた訳では無いらしい。チェスターは瞬時に結界魔法を展開。どこからか飛んで来た光球をあっさり弾いた。張った結界に大きなヒビが入る。

「おう、チェスター。どっから攻撃して来てるか分かったか?」
「分からん。次はまた別の方角から魔法が飛んでくるぞ。貴様の言う通り、魔力の枯渇を待つ方が建設的らしい。だが、それだとあまりにも簡単過ぎるように……思うが」

 やや眉根を寄せ、腑に落ちないような顔をしたチェスターが再度別の結界魔法を造り始めた。