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照り付ける太陽、蝉の鳴き声、子供達がはしゃぐ声――
夏だ。夏である。夏と言えば海にかき氷、祭にそう、何より待ちに待った夏休みがある。学園の性質上、夏休み途中で出校する羽目になる事があるらしいものの休みは休みだ。
「そう、夏休みなんだけど・・・」
独り言を呟いたレティシアは財布のお札入れへとおもむろに指を突っ込む。人差し指と親指の間に挟まっているのは千円札が3枚のみ。
――夏!越せない!!
寮生とは言え、夏は夏。友達と海へ行ったり何だりと忙しい毎日を過ごすのを想像するのは難しくない。しかし3千円という少ない金銭では夏を満喫する事など出来ないだろう。
一つ盛大な溜息を吐き、クラスメイトであるコーネリアから貰ったバイトのチラシに目を落とす。高時給である上、日雇いだ。気に入らなければ次は別のバイトへ行けばよいのだし、このバイトをやってみようか。
ただ、一つ問題がある。レティシアはつい最近――2ヶ月ほど前に転校して来た、所謂転校生だ。しかも寮生でこのアノリアの地理にあまり詳しく無い。この場所まで一人で行けるか不安だった。
「仕方無い・・・アルヴィンくんに相談しよう」
Aクラスのアルヴィンは転校して来て間もない頃、教師達が紹介してくれた世話係のような同級生である。非常に無愛想ではあるが、実は優しい人物だと――そうだったらいいのにな。
ともあれ、彼に相談してみるとしよう。もしかするとバイト地まで送ってくれるかもしれないし。個人的な感想だが暇そうだし。