プロローグ

01.


 2117年、冬。
 味気ない封筒を手に、浮かれた気分でミータルナ支部のビル内へ入って行ったブレット=クォーツは早速その封筒を開けるべくペーパーナイフを取りだした。小さな包みも送られてきたが、これについては何か変な物だったらまずいので手紙を読んだ後に開けるとしよう。
 もう一度、郵便受けに入っていた封筒をまじまじと見る。白地、特に装飾もないテンプレートな封筒は封蝋で厳重に留められている。シーリングスタンプの紋章は一体何を意味しているのだろうか。ジェラルドなら或いはその答えを導き出せるのかもしれない。
 一瞬、蝋が割れるのを覚悟で剥がしてしまおうとも考えたがそれも止めておく事にする。スタンプに何か仕掛けてあったら一大事だ。

「差出人・・・一応もう1回確認しておくか」

 危険物、或いは知人を装った手紙かもしれないので筆跡を確認。やはり差出人は『ルシア=スタンレイ』で間違い無いらしい。筆跡も今まで見てきた彼女のそれと一致する。

「それにしても、ルシアさん元気してるのかな。手紙送りつけて来るくらいだから、元気なんだろうけど・・・」

 誰もいない部屋に虚しく自分の声が反響したのに溜息を吐き、今度こそ開封。
 折りたたまれた2枚の手紙が姿を現した。身構えてみたが封を開けた瞬間、冒涜的な低級神が召喚されたり、はたまたミクロレベルの微粒子が空気と結合、謎の生き物が爆殖、なんて事も無かった。うん、拍子抜けだ。

「まさか2年ぶりの会話が手紙で済まされるなんてなぁ・・・でも、生きてるだけ良いって事かな――」

「おい、何呑気にしてんだ!仕事行くぞ、ブレット!」

 唐突な大声。仕事という単語を聞いてブレットは再び浅い溜息を吐きつつ手紙を再び封筒の中に仕舞った。
 一連の行動を終え、のろのろと首を動かして入り口に突っ立っている先輩の姿を視界に入れる。言葉とは裏腹に、彼に急いでいる様子は無かった。

「今日はまず何の仕事ですか、ジェラルド先輩」
「おう。お前何見てたの?・・・まあ、それはいいか。魔力観測機が不規則な魔力の流れを4区辺りで観測した。行くぞ、どうせまたどっかの馬鹿が「うんちゃら神の降臨を〜」、とかやってんだろ」
「機嫌悪ッ!朝一で不機嫌過ぎるでしょ先輩!」
「俺、今日は非番だったのによぉ・・・」
「うちの支部に休みなんて有るわけ無いでしょう。幻想ですよ、幻想」

 ルシアの手紙に文鎮を乗せ、踵を返す。どのみちみんなも読むだろうし、間違って捨てられないように目立つ所へ置いておいた。

「先輩、ルシアさんから手紙が届いてるんですよ。さっさと終わらせて返事を考えましょう」
「はぁ?アイツ生きてんの?つか、ずっと移動してる奴にどーやって手紙届けるんだよ、馬鹿」

 思い出す、めくるめく、2年前の今以上に忙しかった日々を。
 悪夢のようで、それでいて最も充実していたであろう日々を。