プロローグ

5.



「随分大人しかったね〜、ルーカスくん。いつ騒ぎ出すか楽しみだったのに〜」

 触れたくなかった地雷にあっさり触れたのはこれまた静かだったフェリクスだった。が、彼の場合は口ぶりからしてルーカスの観察をしていた為だろう。
 ふん、とルーカスは鼻を鳴らす。

「レディファーストってやつさ。ヒイラギちゃんだって女の子なんだから、オレが出張って行きたい所に行けなくなったら悲しいだろ?」
「ちょっと何言ってるか分からないな〜。ルーカスくんって、時々人類なのか疑いたくなる事言うよね〜」
「オレそんな難解な事言った!?お前こそ時々オレに辛辣過ぎるだろ!!」

 そんなルーカスの要望は1つ。師団長が女性である事。だとしたらもう行き先は決定したようなものだ。良かった下らない条件で。

「なら6師団ね。残ってる師団の中で女性が師団長をやっているのはそこだけよ。まあ、あなたのジョブとも相性は悪くないみたいだし――」
「あ、相性とかは気にしなくていいぜ。女の子の為なら職種すら変えてみせる」
「ああそう・・・」

 さて、とパーシヴァルがようやく自分の番だとでも言いたげに何故か椅子から立ち上がる。その視線の先にいるのはフェリクスだ。

「よしっ!さぁ、1か2か!好きな方を選べ、フェリクス!」
「相変わらず暑苦しいなぁ。俺はどっちでもいいよ〜。年長者から選べば?」
「そうか!なら俺は2師団に甘んじよう。やはり成績が優秀な者が1へ行くべきだからなっ!」

 その発言が気に入らなかったのか、フェリクスが眉根を寄せた。

「ふ〜ん。でもまださぁ、成績貰ってないし俺なんて気にしないで好きな師団に行けばいいんじゃないの?」
「いいや分かる。このメンバーの中でお前に勝る兵士はいないさ。2位はヴェーラとみた。貢献度的に言えば俺よりずっと働いているからな!」

 背筋に嫌な汗が伝う。元々、フェリクスとパーシヴァルの相性は悪かったがそれが明確になった気がした。やや歪んだ性格のフェリクスは一方的にパーシヴァルのような人間を嫌っているのだ。
 案の定、フェリクスの眉間の皺が一層深くなる。あっさり1位の座を売り渡したその嫌味の無さに困惑しているのだろう。

「でも――」
「ねぇ?まだ決まらないの〜?眠くなって来たわ〜」

 ことの成り行きを見守っていたレイラがやんわり口を挟む。途端、何か言い掛けていたフェリクスは口を閉ざし眉間の皺がまるで憑き者でも落ちたかのようにスッと消える。

「ごめんごめ〜ん。いいよ〜、俺は1師団で〜。まあ、どこだっていいしね」

 こうして全員就職先が決定したわけだが、この後会議室へやってきた教官が渋い顔をしたのは言うまでも無い。