2話 泡沫に咲く花

09.自問


 ***

 再び現地へ舞い戻って来た。早すぎる帰還にメイヴィス自身も困惑しかない状況だ。
 現実逃避を決め込んでいると、アロイスが場を仕切り始める。彼が最も人を動かすのが上手であるのは周知の事実。誰も文句など無いし、騎士サマが指示を出すまで待っていたまである。

「流石に全員で固まって動くのは効率が悪い。二手に分かれよう」
「了解です。どうしましょう? 私がナターリアとメヴィの面倒を見ましょうか?」

 ヒルデガルトの申し出に、アロイスは否と首を振った。

「ナターリアはメヴィを見ていてくれ。出来うる限り、俺達でウタカタを処理する。その間にプロバカティオの所在を突き止めておいて欲しい」
「ウタカタの方は大体の位置が変わりませんからね。我々が戦闘を担当し、捜索を2人に任せるという事ですか」

 ――あっ、アロイスさんそっち行っちゃうの!?
 幾ら武器が強くなろうとメイヴィス自身は歩くアイテムボックスに相違ない。アロイスがそう提案するのであれば、それが一番効率的な方法なのだろう。しかし、ヴァレンディアにいた頃は一緒に行動するのが当たり前になり過ぎていたので、違和感を覚えるのは確かだ。
 その後、万が一の場合の救援や離脱の為の煙弾説明に加え、アロイス本人から直々に名指しで無茶をしないようにと言い聞かせられてしまった。そんなに心配されるような振る舞いをした覚えは無いのだが。

「アロイスさん、心配しなくても私がクソ雑魚なのはちゃんと分かってますから……。命を大事にするんで、大丈夫です」
「あ、ああ。それなら良いんだが……。何故だろう、嫌な予感がする」
「ええ!? ふ、不穏……」

 解散と同時に発せられたアロイスの作戦支持で各々の配置へと向かう。ナターリアの背を追うメイヴィスは。一度だけ騎士3人組と共に行ってしまったアロイスの方を振り返った。
 彼の心労の元にはなりたくないので、ここらでバッチリ言われた事くらいこなせる事をアピールしていきたい所存だ。

 ***

 ――などと思っていたのも束の間。
 つい先日からずっとウタカタに加え、プロパカディオまで出現している地帯にしては、あまりにも平和な時間が過ぎ去っていく。まるで異変など全て夢幻で、恐い事なんて何一つ起こっていないのではないかと錯覚してしまう程だ。

「何にも無いね、ナターリア」
「そうだねえ。まあ、手が掛かるから何も無いなら無いで構わないけど!」
「いや構うよ……」

 ――これじゃあまるで、アイテムボックスどころかお払い箱にされた気分だ。
 とは流石に言えなかったので口を噤む。最初は意気揚々と作戦を成功させてやる、と思っていたのに今では戦力外通告を受けた後のような気分だ。いや、実際にその考えであっているのかもしれない。

 確かに今までの過程でアロイスにはかなりの迷惑と負担を掛けた。それは間違いない。間違いないけれども、こうして放り出されてしまうのは単純に寂しさが勝る。自業自得ではあるが。

「あー、折角新しい武器作ったのになあ」
「落ち着きなよメヴィ。不吉な事が起こりそうな気がするって言ってたじゃん、アロイス。心配してるだけだって。今回はヴァレンディアのドキドキ遠征大作戦じゃなくて、ガチヤバ神魔物大戦なんだよ? 遠足気分ならケガじゃ済まないからね」
「前も勝ったからなあ、ウタカタ」
「油断大敵。先人の言葉は胸にも頭にも刻んでしかるべきだよっ! まあそれに、これもこれで大切な役割だし。ウタカタから流れるようにプロパカディオの討伐をするのなら、こっちでヤツは見つけておかないと」

 ざくざくと道なき道を進んでいく。連日の雨で地面はぬかるみ、大変足下が悪い。降り続く雨はいつになったら止むのだろうか。細い雨なので川が氾濫する事は無いだろうが、それでもこれ以上降り続ければどうなるかは分からない。

「アロイスさん……」
「はいはいはい。そのアロイスさんが安全な仕事を回してくれたんだから、感謝しようねー」
「――うーん」

 そうだね、と返事をしようとしたところで脳裏を過ぎるのは先日のグレアムとシノ。互いを支え合い、高め合うパートナー達。
 本当にこれでいいのか? もう何度目になるか分からない自問自答が、今日もまた脳内で渦巻いている。