2話 泡沫に咲く花

03.オーガストからのお願い


「話は変わるけれど、結局強くなるのってアロイスの為なんだよね? でもあの人、かなり強いしメヴィがそんな努力する必要の無い人代表みたいな人物だよね」
「そうだけどさ、私だけ後ろで震えている訳にもいかないし。もし私に何かがあって、アロイスさんが怪我したら……とか考えると、とてもじゃないけれど黙って座っている事は出来ないなあ」

 ――それに私は……どうも、大した怪我じゃない怪我はすぐに治ってしまうみたいだし。
 その言葉は胸中に留めた。こんな事、ナターリアに言おうものなら発熱を疑われかねない。

 何故か微妙な空気になったこの場の空気を解凍したのはメイヴィスでもナターリアでもない、全くの第三者だった。ガタガタ、と明らかに慌てた音を立てて姿を見せたのはマスター・オーガストである。
 あまりの慌てっぷりに嫌な予感が瞬時に脳内を駆け巡る。最近、彼を見るとあまり良い事にならないのは実証済みだ。そして、今回もまた我等がマスターは無理難題を吹っ掛けてくる。

「すまん。メイヴィス、ナターリア! 緊急クエストに参加してくれ!!」
「え? 私がですか?」

 ナターリアはともかく、メイヴィス自身は緊急クエストに参加出来るような力は持っていない。前回もそうだったが、人選が杜撰過ぎやしないか。
 しかし、オーガストの中で今回の人選にメイヴィスが入っている事は決定事項だし、正しい人選であるようだった。力強く頷きを返されてしまっては言葉も出ない。

「ああ! 今回のクエストには君のマジック・アイテムが必要不可欠!! 是非とも彼等に力を貸してやってくれないか?」
「彼等?」
「君のいつものメンバーだな」

 もうそれで誰を誘ったのか分かった。まず間違いなく、今回のクエストにはアロイスが同伴している事だろう。そして今日も今日とて自分自身はアイテムボックスという訳か。成る程、戦闘をする為ではなくサポートの為に声を掛けられたのだ。
 考察している内にグングン話は進む。元々彼は少し強引なところがあったが、今日はそれに輪を掛けて強引だ。急いでいるのがよく分かる。

「では、会議室で待っているぞ!!」
「待ってよマスター! 会議室ってどの会議室なのかなっ!?」
「ああ、第三会議室だ!」

 じゃあ、と言ってオーガストがもの凄い勢いで去って行く。決して走っている訳ではないのだが、謎の推進力がある動きだった。

「ああ、行っちゃった……。どうしよう、ナタ」
「どうしようもないよね! 一旦、会議室まで行って無理そうならメヴィは断った方が良いよ!! 今日のマスター、あんまり冷静な判断が出来てなさそうだし」

 最後の一言だけ潜めるように、密やかにそう言ったナターリアは早々に会議室へ向かう支度を始めた。主に掻いた汗などをタオルで拭き取ったり、お話が出来る状態にシフトチェンジしようとしている。
 メイヴィスもまたそれに倣い、持ってきていた水を飲み干す。あまり動いたつもりはなかったが、久しぶりの手合わせで緊張していたのだろう。喉はカラカラだった。

「それじゃあ行こうか、メヴィ」
「うん、そうだね。マスターを待たせる訳にはいかないし」

 ***

 程なくして滅多に使われる事のない会議室に到着した。あまりにも使わないので、それなりに古参であるメイヴィスですら会議をするという目的で訪れたのは初めてだ。ほとんどがただの多目的室という様相を成していたからである。
 会議室内にはほとんど予想した通りのメンバーが揃っていた。まずはアロイス、そしてヒルデガルトに加え、ヘルフリートだ。騎士セット。

「お邪魔しまーす!」

 その中にナターリアが意気揚々と加わる。特に遠慮するような面子でも無かったので、メイヴィスもまた挨拶してその輪に加わった。
 アロイスの目が細められる。穏やかな顔付きだ。

「メヴィ、いつの間にギルドへ来ていたんだ?」
「朝からいましたよ。ナターリアと外で手合わせしていました」
「そうだったか」

 そういえば、呼び付けた本人であるマスター・オーガストはどこへ行ったのだろうか。姿を捜そうと視線を彷徨わせたところで、会議室のドアが開きオーガストが姿を現した。手には分厚い資料を持っているので、それを取りに行っていたのだろう。