06.ナターリアとヒルデガルト
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クエストの指定地に到着した。コゼット郊外の森林なのだが、ここは本当によく魔物が湧く。何か理由でもあるのだろうか。今度、魔物学者の彼にでも聞いてみよう。
しかし、何やら森林は様相が変わっているようだった。
今まで見掛けた事の無い『立ち入り禁止』の看板があちらこちらにたくさん立っているのが目視できる。しかもどう見たって新品の看板だ。
うわ、とシノが目を細める。
「面倒事になってるな。本当に私達だけで大丈夫か? 頼りになるのはヒルデとナターリアくらいだぞ」
「あらあら、アタシが付いてるわよ、シノ」
「グレアム……。お前、前職確かファッションデザイナーだったよね?」
ジト目のシノを受け流し、グレアムがパンパンと仕切り直すかのように手を打った。一同の視線が彼へと集まる。
「ここ、かなり広いわ。二手に分かれましょう」
「え、このメンバーをですか? ううん、どういう風に分けましょう」
ヒルデガルトが困ったように小首を傾げる。確かに人数は5人で、2つに分けると3対2になってしまう。
だが、とメイヴィスは首を振った。自分は物の数に勘定してはいけないだろう。戦闘が出来るのは実質4人で、そうなってくると自分がどちらの振り分けに付いて行くかだけの話になる。
それを悟ったのは親友のナターリアだった。素早く現状を把握し、言葉にする。
「じゃあ、グレアムとシノは一緒にどーぞっ! メヴィの面倒はあたし達が見るよっ!」
「そんな適当な感じで大丈夫ですか? グレアム殿、もし何かあればすぐに呼んで下さい。私も元騎士の端くれ、すぐに駆け付けます」
おう、と気安くシノが片手を挙げる。
「まあ、危機管理能力はあるから大怪我する前に助けを求めるよ。そっちも、ちゃんとメヴィの面倒を見ろよ」
「心得ました、お任せ下さい」
この上なく頼もしいヒルデガルトはそう言うと微笑みを浮かべた。彼女は本当に女性騎士の鑑である。
感心しつつ、シノに訊ねる。
「シノさん達、何か欲しいアイテムとかありますか? 今のうちに分け与えますよ」
「そうねぇ。じゃあ煙弾と、逃亡に使えるようなマジック・アイテムを貰って良いかしら?」
「了解です。……逃亡用と言うと、足下を凍り付かせる系のアレで良いですか?」
「十分よ、有り難うメヴィ」
グレアムにいくつかのアイテムを持たせる。口調はこうでも流石は男性だ。自分の手が小さく見えてしまい、何故か瞠目した。
「さ、じゃあ行こうかメヴィ! 何が出て来るのかなっ!」
「はーい!」
今の出来事は一旦忘れ、ナターリアの呼び掛けに返事をする。さあ、どんな魔物がこの森に巣くっているのだろうか。
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しかし、近場の森林に巣くっている何かよりもずっと驚いたのは、ヒルデガルトとナターリアの仲が最後に見た時よりずっとよくなっているという事だ。基本的に正反対の性格をしているからこそ、波長が合ったのだろうか。
2人の会話は途切れる事無く続き、古参であるはずのこちらが遠慮をしてしまう程だ。ナターリアに友達が出来たのは嬉しいが、何となく寂しさもある。
「ナターリア達は、私がヴァレンディアにいる間どうしてたの? そういえば、私の話はよくするけれど、2人の話はあまり聞かないね」
「そりゃそうだよっ! だってあたし達はいつも通りにギルドでクエストやってただけだもん! メヴィみたいに騎士サマと優雅な錬金旅行、なんてネタになる事もなかったし! ねえ、ヒルデ?」
「そうですね。こちらは特段、トラブルがあった訳でも無くギルドでの日常を満喫していました。変わった事と言えば、ナターリアとクエストへ行く機会が増えた事くらいでしょうか」
「え、どうして増えたの?」
正直なところ、ナターリアと関わりと持つ前のヒルデガルトの生活はよく分からない。視界にも入らない場所で活動をしていたようで、一切の接点が無かったからだ。
そんなメイヴィスの問いに、彼女は可愛らしく苦笑した。飾らない笑顔は彼女の美徳と言えるだろう。
「恥ずかしながら、以前の私はアロイス殿やヘルフリート殿などの騎士仲間とばかりクエストへ行っていたので。メヴィとアロイス殿が出掛けられてからは、めっきりパーティを組んでくれる方がいなかったのです」
「そこであたしが登場って訳! ヒルデ強いから、魔物狩り捗るし丁度良かったんだよねっ!」
「ああ……。美談がナタのせいでどんどん俗物的なものに変わっていく……」
しかし、彼女等のタッグは強力過ぎる程に強力だろう。ナターリアにしてはよく考えたものだ。