04.オーガストの用事
「楽しげにしているところすまない! 君達にちょっとしたお願いがあって来たのだよ!!」
「お願い、ですか?」
訝しげな顔をするヒルデガルトに、マスターは大きく頷いた。
「実は緊急クエストへ行って欲しい! 今居る手練れは君達だけだ! かなり急ぎでね、メンバーを集めている暇が無いッ!! 是非行って貰えないだろうか!」
「緊急クエストねぇ……。本当に急いでいるようだけれど、それってアタシ達に務まるのかしら? 見ての通り、戦闘に精通しているのはナタとヒルデだけよぉ」
グレアムが眉根を寄せて訊ねる。彼も彼で、それなりに戦闘は出来るだろうが如何せん元職がファッションデザイナー。戦闘専門のヒルデガルトやナターリアには流石に劣るだろう。
そして言わずともがな、メイヴィス自身とシノは地下工房同盟。当然ながら戦闘は基本的に不得手だ。こちら側のギルド貢献は緊急クエストの消化ではなく、物品の納品である。
当然ギルドマスターであるオーガストがそれを知らないはずがない。分かっている、と力強く宣言した。
「大丈夫だ、君達でこなせるクエストである! ただまあ、非常に急ぎというだけで」
「そう言うのであれば引き受けましょう。私が彼女等の事をきちんと護ります、元騎士の誇りに誓って」
頼もしい発言はヒルデガルトのものだ。彼女は正義感がとても強いので、緊急クエストを見なかった事には出来ないだろう。
彼女の一言により、その場が「まあ引き受けても良いか」、という空気に満ちる。そもそも力一杯拒否するような類いのものでもないからだ。
「困っているみたいだし、仕方無いか。ナタ、今日もよろしくね」
「絶対に私からはぐれちゃダメだよっ、メヴィ!」
「頼もしいなあ」
安定感はアロイスに及ばないものの、安心感はナターリアの方が上だ。長年の付き合いで、緊張をしないからだろう。
受領したと見なしたのか、女騎士にクエストの封筒を手渡したオーガストは忙しそうに手を振った。
「では、やり方は君達に任せる! すまないが、私は今、大変忙しいのでね、失礼させて貰うとしようッ!!」
それは冗談では無く本当に忙しいらしい。片手をパッと振ると、いつもはどこか優雅なマスター様は足早に去って行った。
「へえ、マスターが忙しいなんて珍しいな」
「そうねぇ。どうしたのかしら、うちのマスターは」
シノの言葉にグレアムが同意する。何だか面倒事でも起きているのだろうか、我等がコゼット・ギルドでは。
「ともかく、内容を検めてみましょう」
そう言ったヒルデガルトが受け取った緊急クエスト用の封筒を開ける。依頼内容が明記されたそれは、事務の方々が大急ぎで作ったのだろう。インクが所々滲み、急いでいる感が如実に表れている。
それをヒルデガルトの横から読んでいたナターリアが首を傾げた。
「何コレ、魔物の討伐ぅ? 何の魔物か書かれてないよっ!」
「そうでうすね……。何なのか、依頼者も分かっていないのでしょうか」
グレアムが悩ましげに溜息を吐く。困ったわね、とやや途方に暮れた顔をする。
「対策の取りようが無いわねぇ。アタシ達は魔物狩りに関して得意分野とは言えないし……。オーガストちゃんは問題無いって言っていたけれど、不安だわ」
「書かれてないものは仕方無いだろ。ナターリアとヒルデガルトがどうにかするさ」
「やだ、シノ! 貴方自身は別に頼もしくないのに、不思議と頼もしい感じがしてくるわ!」
そんな中、メイヴィスだけは事の重大さを真剣に悩んでいた。烏のローブのおかげで、アイテムが不足する事はない。ないが、実質戦闘で一番役に立たないのは間違いなく自分だろう。
加えて、今日は戦闘職ではないグレアムとシノもいる。自分が足を引っ張ったせいで、2人が怪我をしたらどうしよう。念の為、回復アイテムを事前に多めに錬金して行った方が良いだろうか。というか、そんな暇はあるのだろうか。
「ちなみに、場所はどこなんだよ、ヒルデ」
「はい。場所はコゼット郊外の森林です」
「まあ、いつもの場所か」