1話 戦うためのアイテム

03.ナターリアの妄想ワールド


 そういえばさ、とナターリアが不意にニヤニヤ顔で完全に思い付きの言葉を口走る。

「何の用事があるんだろうねっ、アロイス! もしかして――元騎士だとか言ってたし、婚約者とかいるのかな? かなっ? もしくはお見合いとか勧められてたりしてっ!」
「アロイスさんが? そんなまさか……」

 今までのアロイスの行動を思い返す。うん、彼は確かに顔立ちは整っているしかなり良い人ではあるが、そうであるが故に婚約者などがいようものならメイヴィスの武者修行になど付き合ってはくれないだろう。
 そんな思考を見透かし、更に否定するかのようにナターリアは言葉を続ける。とても妄想ワールドでは無いような、迫真の口調だ。

「どうかな? 確かにメヴィと旅に出ている時にはそういう人はいなかったかもしれないけれど、今から出来るって可能性もあるよね」
「ナタは私をどうしたいの。そのへん、どうなんですか? ヒルデさん」

 こうなれば元騎士ヒルデガルトに聞いた方が早い。そう判断し、聞き手に徹していた彼女へと唐突に話題を振る。きちんとこの下らない話題を聞いていてくれたのか、一つ頷いた彼女は問いに応じた。

「騎士業を退職されているのでしたら、今更お見合いの話などは無いかと」
「それって、現役ならあるって事?」
「ええ、稀にですが……」
「何それ何それ、興味ある!」

 すかさずナターリアが食い付いた。猛獣のような圧しに、ヒルデガルトが顔を引き攣らせながら、身体を仰け反らせて距離を置く。

「え、ええ。確かに王宮育ちの箱入りお姫様などは屈強な騎士の男性に好意を抱く事がままあります。それに、優秀な騎士を余所の国の令嬢に嫁がせる話もありますね。どちらもお伽噺程度の頻度にはなりますが」
「お伽噺レベル!?」
「そうですね。ただ、絶対に無いとは言い切れないのも確かです」

 苦々しい顔のヒルデガルトを見る限り、そう頻繁に起きる事ではないのが明白だ。ナターリアの虚言、妄言と捉えて良いだろう。当のナターリア本人も本気で言っていた訳ではないようで、もう次の話題へと移行し始めている。

「アロイスの目的って結局何なのかなっ!?」
「そうねえ。彼、最近はどこへ行くにもメヴィに合わせていたのに、急だったようだし」

 グレアムが顎に手を当てて首を傾げた。対し、同じ騎士業のヒルデガルトが苦言を呈す。

「元騎士同士の暗黙のルールとして、過去の話は詮索しない事になっています。そのルールはグレアム殿達には適用されないでしょうけれど、それでも詮索を嫌う事は確かなのであまり突かない方が良いかと」
「アロイスさんが嫌だって言うのなら、私も別に何の用事なのか知らなくていいや」

 メヴィはあっさりそう結論づけ、その話題を自身の中で終了させた。彼と自分の関係性はアルケミストとその護衛でしかない。彼の行動にいちいち口出しをする権限は無いし、アロイスの嫌がる事を率先してやりたいという気持ちは微塵も無いからだ。

 そんな考えを読み取ってくれたのか、それまで黙っていたシノが気怠そうに口を開く。

「なあ、それよりこれだけ人数が集まってるんだから、クエストの一つにでも行く? ここでダラダラしてるだけっていうのも時間の無駄だし」
「ダラけている訳じゃなくて、恋バナしてるんだよっ!」
「なってないだろ、見ろよこの面子……」
「まあいいやっ! 折角、メヴィがギルドに帰って来たし、久しぶりのクエストにでも行こうかっ!」
「何なのお前」

 シノのぼやきを華麗にスルーしたナターリアが、今後の予定について提案する。そうと決まれば話が早いのは彼女の持ち味だろう。

「メヴィもいるし、大人数で行けるクエストにしようよっ! ねっ、グレアムさん達も一緒に行くでしょう!?」
「いいわよぉ。たまにはシノとクエストデートも悪くないわ」
「よくもまあ恥じらいもせず、そんな事言えるなあ……」

 僅かに顔を赤くしたシノが本当にぽつりとそう呟いた。シノとグレアムの発言権の重みはどちらにあるのか知らないが、何と言うかグレアムは手慣れている感があると思う。性格が性格なだけあって、女性が何を言えば喜ぶのか、またはその特性故に言動に羞恥というものがあまり無いのかもしれない。

「では、どのクエストに――」

「やあやあ! 急で悪いが、少し良いだろうかッ!!」

 ヒルデガルトが場を取り纏めようとしたその時だった、聞き覚えのある声が彼女の声を完全に掻き消す。誰なのかは見るまでもない、ギルドマスター・オーガストだ。