8話 真夜中の館

08.ガラス玉とミスリルのドーム


 ***

 本格的に真夜中の館を作成すべく、フィリップの館に戻ってきた。イアンとはその場で別れたので、メンバーはギルドの面子だけになっている。
 ちなみに現在は真っ昼間だが、事前に今日はお昼にお邪魔する事をシオンへ伝え済みだ。なので、館の扉をノックすると当然のように彼女が出迎えてくれる。彼女は夜型ではないのだろうか。それとも、来客があるので起きていたのだろうか。

 しかし、ここで急にウィルドレディアがその足を止めた。

「さぁ、ここからは貴方の戦いね、メヴィ」
「え? はあ、まあ、そうですね」
「ちょっとアロイスを借りて良いかしら。伝言というか、お話があるの。それとも、今からの作業に彼という男手は必要?」
「いえ、必ずしも居て貰う必要はありませんけれど……」

 その辺はアロイスの意思次第だろう、と護衛騎士に視線を送る。珍しく穏やかな表情は形を潜めた彼は魔女を見つめると、ややあって頷いた。

「すまない、メヴィ。俺はウィルドレディアの話とやらを聞いてくる。ここから離れるつもりは無いから、必要であれば呼び付けてくれて構わない」
「了解です、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

 ――帰らないと、って言ってたな。
 去って行く魔女と騎士の姿を見つめながら、漠然と先程の記憶が蘇る。自分のあずかり知らない所で、何か大きな物事が動いているような感覚。形の無い不安のようなものを、頭を振って追い出した。今はそれどころではない。

 それに、アロイスの貸し出しは許可したがイアンに手伝って貰った範囲結界を起動する時はウィルドレディアの手が必要だ。それまでには戻ってきてくれるのだろうか。最悪、呼びに行く事になりそうだが。
 悶々と考えていると、玄関で待機していたシオンが口を開く。

「さあ、こちらへ。地下工房までお送り致します」
「あ、お待たせしちゃってすいません」

 侍女に謝罪しつつ、勝手知ったる玄関を通り、貸し出されている地下工房へ。

 ***

「では、私はこれで」

 地下工房にて。シオンと別れたメイヴィスは小さく息を吐いた。集中しなければならないが、アロイス達の事も気になる。何とか完璧に依頼をこなし、後で何があったのか聞いてみよう。最近彼に対して出過ぎている気がしてならないが、頭ごなしに説明を拒否される事はないと思う。

「よし、始めよう!」

 まずは今回使う材料を烏のローブから取り出す。
 ミスリル1s、ミズアメタケもといリードタール、イアン達と協力して作った範囲結界のガラス玉、そしてそのガラス玉より何十倍も大きい型取り用のガラス玉。

 そして『真夜中の館』錬金術プランを脳内で思い描く。
 まずはリードタールでミスリルを溶かし、この型取り用ガラス玉に薄く伸ばして型を取る。足りない場合は材料を追加するかもしれない。
 そして作った丸い型の一点に穴を開け、その中で術式を再起動。起動した瞬間、再度ミスリルで蓋をする。
 最後に乱反射の原理を固めたミスリルの上から適用。これで、少量の魔法を組上げるだけで範囲結界を維持出来るはずだ。半永久機関、我ながら凄い物を作ろうとしている。
 ――型を作ったら上に戻って、魔法を使える人を呼ぼう。
 その人にはミスリル加工を見られてしまう事になるので、十分な選定が必要だ。この技術は悪用されるとミズアメタケが絶滅しかねない。

 ***

 型作りはすぐに終了した。ここまではただの前哨戦。こんなものはミスリルの取り扱いに失敗さえしなければ簡単な作業である。

「この辺に穴を開けようかな」

 まずは外側のガラスを取り外さなければ。軽い衝撃の魔法を使って、外側の脆いガラスを粉々に砕く。破片を踏まないように気を付けながら、完全に固まっているミスリルのドームを明かりに翳した。
 パッと見ればただのガラス玉だが、よくよく見るとミスリル特有の青白い輝きを放っている。高級ガラスみたいで本当に綺麗だ。

 粉々になったガラスを魔法で集め、錬金釜に投げ込む。魔法でかき混ぜると、最初の傷一つ無い型取り用のガラス玉に戻した。再利用は節約の要である。型をローブに仕舞い、ミスリルドームの一点に空いた穴を少しだけ小さくする。人の握り拳より一回り大きな穴なら良いのだ。

「ドレディさん、戻ってるかなあ……」

 ――アロイスさんに話があるって言ってたけど、そのまま二人でどこか行っちゃってたら嫌だなあ。