02.魔女からの伝言
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「――えぇっと、それで、どの辺を捜したら良いと思いますか?」
「正直に言ってしまうと、アテは無い。シオンが起きている事を信じて、フィリップ殿の館へ行くのが一番の近道だろうな」
記憶が正しければジャックやルーファスを捜そうと言い出したのはアロイスだったはずだ。責任の擦り付けをするつもりは毛頭無いが、にしたってノープラン過ぎやしないだろうか。
ただ、最近この完璧騎士サマの性質が少しずつ分かってきた。彼はきっちりしているように見えて、要所要所で適当なところがある。
ノープランではあったが、アロイスの打ち出した解決法は的を射ていた。彼がパッと思い付いた方法が一番確実だ。
「じゃあ、まずはフィリップさんに会いに――アロイスさん?」
「メヴィ、あれはウィルドレディアじゃないか?」
「えっ」
少しだけ驚きに目を開いたアロイスの視線を追う。その先には見間違いようもなく、コゼット・ギルドの魔女こと、ウィルドレディアの姿があった。
魔道国であるヴァレンディアの風景にこれでもかと言う程馴染んでいるのが伺える。
そんな彼女はこちらを見つけると小さく手を振った。違えようも無く自分か、もしくはアロイスの用事があったのだろう。当然のように合流を果たした彼女は妖艶な笑みを浮かべている。
「メヴィ、アロイス、久しぶりね」
「お久しぶりです。ドレディさん、わざわざヴァレンディアまでどうしたんですか? 里帰りとか?」
「私の出身地はここじゃないわ。マスターから言われて伝言を届けに来たの。メヴィ、貴方では無くアロイスの方にね」
指名されたアロイスは少しだけ目を逸らすと、「そうだろうな」と半ば独り言のように呟いた。
「ウィルドレディア。何の用事なのかは分かっている。近々戻るつもりではあると伝えてくれ」
「あら、すぐには戻らないのね」
「そもそも俺にそういった頼み事をしてくるのが間違いだろうな。何を考えているのかさっぱり分からない」
――私だけ置いてけぼりだ!
事情を知っているらしい魔女と騎士の会話。錬金術師はただただ隣でオロオロと革の着地点を計るのみである。
ただし、会話に何らかの決着をしたアロイスが不意にこちらへと向き直った。
「メヴィ、すまないがその内、一度コゼットへ帰らなければならない」
「えーっと、じゃあまず、ギルドに戻りますか? どのみち今は特にアテがあるわけでもないですし」
「一度戻ってしまうと、次はいつヴァレンディアへ俺が行けるか分からない。先にフィリップ殿の依頼を済ませた方が良いぞ」
「そんなに掛かるんですか? でも、アロイスさんも急ぎみたいですよね」
「気にするな。お前の用事を先に終わらせて良い」
「こっちも、今考えている案が没になったら時間が掛かるかもしれませんけど……」
「問題無い。そう言って今まで失敗した事などほとんど無かっただろう」
失敗をしなかった訳では無く、いくつか出した案の中のどれかが当りだったに過ぎない。が、結果的にあまり時間を掛けず依頼をこなせてはいるので訂正はしないでおいた。
ちら、とギルマス・オーガストの伝言を持って来たウィルドレディアの様子を伺う。彼女がせかすのであれば、やはり先にアロイスの用事を終わらせたい。
しかし、魔女その人は呆れたように肩を竦めただけだった。
「そう。貴方がそれで良いのなら止めはしないわ。それに、《真夜中の館》くらいメヴィならばすぐにでも作ってしまうでしょう。野暮な邪魔はしない方が良いわね」
「それでだ、ウィルドレディア。お前は確か魔法が得意だったな。館の作成に必要な、範囲結界を張れる人材を捜している。お前では無理だろうか?」
魔女は眉根を寄せて首を横に振った。
「無理ね。ああでも、3秒くらいなら起動出来るかしら」
「や、3秒は厳しいです」
「そうでしょう? ところで、何の特性を持った範囲結界を展開するつもりだったのかしら?」
「特性を昼から夜に変える結界です」
「そんなの、私には1秒だって無理ね。人間だもの」