03.ミスリル加工について
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国内唯一のミスリル採掘場へ向かう。あまり離れていないにしろ、徒歩で向かうには少しばかり遠いような気もする場所だ。
今日の面子であるアロイスとシノ。初対面という事もあってか、口数が少ない。堪らずメイヴィスは口を開いた。あまりにも静か過ぎるとどうしていいのか分からなくなる。
「シノさん、グレアムさんとは最近どうなんですか?」
「は? 何でいきなりグレアム?」
「お付き合いしてるじゃないですか」
ギルドにおける美女であるシノ。そんな彼女を放って置くはずもなく、彼女には恋人がいる。かつてはファッションデザイナーだったグレアムは、布を持っていけば有料で服を仕立ててくれる、有り難い存在だ。
照れ隠しなのか、苦い顔をするシノ。しかし、そんな顔をしながらも問い掛けには応えてくれる。
「喧嘩する訳でも無く、普通にお付き合いしてるさ。まあ、アイツあまり突っ掛かって来ないからな」
「グレアムさんって優しいですよね」
会話が終了し、再び沈黙に支配されるかと思ったが、不意にアロイスが口を開いた。
「そういえば、お前達は何故、研究の為にミスリルを必要とするんだったか」
「ミスリルっていうのは、現段階では錬金術の素材にも武器の素材にも出来ないからさ。あんな鮮やかな色をしているけど、溶かす事も出来ない。という事はだ、それでアイテムを作るなり武器を造るなりすれば、かなり使えるんじゃね? って事」
「なるほどな。一時期、ミスリル・ウェポンとかいう言葉が流行っていたのをよく覚えているよ」
懐かしい言葉が出て来たものだ。ミスリル・ウェポンという幻想武器の噂が広まったのは3年前。実際には「そんな武器があったらいいのにな」、という本当にただの噂話に過ぎなかったのだが、そんな根も葉もない噂が流れる程度には硬度のある鉱物と言えるだろう。
「お前達がやりたい事は分かった。が、先達の誰も成し得ていないミスリルの加工に挑戦するという事は、何か勝算があるのか?」
「勝算というか、えーっと、その、鍛冶師と錬金術師が組めば……或いは本当に作れるかもしれないじゃないですか。ミスリル・ウェポン」
「そう。恐らく、ミスリルを鎚で叩けるよう溶かす事はあたし達、鍛冶師には出来ない。けれど、如何なる物も溶かし崩し、本来はあり得ない不自然的なアイテムを錬成出来る錬金術師なら。ミスリルを溶かす事が出来るかもしれないだろ?」
ミスリルが鎚で叩いて延ばせるのならこっちののだ、とシノは頼り甲斐のある笑みを浮かべた。
「とはいえ、私の方がミスリルを溶かせないとどうしようもないんですけどね」
「お前なら出来るよ。何かよく分からないけれど、そんな気がする」
「応援に根拠がなさ過ぎますよ!」
いずれにせよ、シノがミスリル・ウェポンを作る為にはまず、錬金術師である自分がミスリルを加工出来る状態に持って行かなければならない。鍛冶場の主、エルトンが言うには「恐らく鍛冶師にミスリルを打ち据える為の技術を生み出すのは不可能」、との事だった。
とどのつまり、普通のやり方でやっても、ミスリルを加工出来る状態には持って行けなかったと断言しているのだ。あの、頑固で職人気質に溢れるエルトンその人が。
現状、プランが2つある。
ミスリルと毒物を同時に錬金し、その毒物と錬金素材液の特殊効能を以てしてミスリルを『溶かす』事に重点を置く錬金術。
もう1つは、鎚。術式を埋め込んだ鎚でミスリルを細かく砕き、そこで錬金釜に放り込んで液体にする。こちらの方法はチョコレートを溶かすようなイメージをすればそれが近いだろうか。
それぞれに大きな問題があるが、とにかくあの強固なミスリルを鎚で打てる硬度に下げる。それが一番の目標だ。一度成功すると原理が理解出来、別の方法を模索する余地が生まれる。
「俺には何とも言えないが、完成した暁には一目見せてくれ。恐らくそれは、歴史的瞬間になるはずだからな」
「あ、はい、勿論です! まあ、作れるかどうかは別問題ですけど……」
ところで、とアロイスが再び話題を変えた。
「シノ、お前は鍛冶場の見習らしいな?」
「そうだけど、それがどうしたのさ」
「得物の整備を頼みたいのだが、いつが空いているだろうか。いまいち勝手が分からなくてな」
「……いつでも空いてるけどさ。お前それ、師匠に持っていくなら覚悟しといた方が良いよ。あの人、その手の得物は好きじゃないかもしれない」
そうだろうな、とシノの言葉に同意したアロイスは困ったように苦笑した。話の意味は全く不明だったが、口を挟める雰囲気ではなかったので、どうかしたのか聞く事も出来ない。