エピローグ





 あれから、城内はもちろん大騒ぎだったらしい。レクターとかいう暗殺者はおいておくとして、ラグとクレアは逃走。マゼンダと双子も見掛けなかったから、きっと先に帰ったのだろう。

「真白」

 馬車の中からぼんやり外を眺めていれば、アルフレッドの屋敷へ戻っていたディラスが帰って来た。由がいなくなった以上、旅に出る必要は無いのだがお尋ね者になってしまった為、やはり一カ所には留まれないらしい。
 それを踏まえた上で、ディラスは実に愉快そうな顔をしていた。最近、無表情の中の微かな表情を読み取れるようになってきたのが何だかくすぐったい。

「どうだった?」
「何の問題も無く出発出来そうだ。そして――」

 右手の平を開く。その中には小さな――まるで、飾りのように可愛らしい鍵が収まっている。

「何、それ?」
「別荘の鍵だそうだ。使いたければ使え、とアルフレッドから」
「今回の事に関わって無いの、気にしてる?」
「そうかもしれないな。だが、あの場にいなくてよかっただろう、あれは」
「そうね」

 《道化師の音楽団》には多大な迷惑を掛けてしまった。それを謝るつもりは無いが、散々引っかき回しておいて、さらにディラスを引き抜いて旅に出るなど図々しいのもいいところである。

「もう出すぞ。いいな?」
「ええ」

 微かに笑ったディラスを尻目に、逆さ音符のブローチを外し、小さな手荷物の中へ放り込んだ。