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何となく場の雰囲気で口を噤んでしまう。嘉保が怪訝そうな目を向けてきたが、それには気付かないふり。ジャレッドは珍しく真剣にドルチェの方を向き直った。奥方もまた、雰囲気に呑まれたのか顔を強張らせている。
「あんた――もしかして、魔女か?」
「・・・」
ドルチェは答えない。ただ、黙って猛獣使い――否、召喚師を見返しただけだ。答えるべきか考え倦ねているのだろう。
「魔女の知識があるのは東瑛だけじゃねぇ。知ってる奴は案外たくさんいるかもしんねぇぜ?で、どうなんだよ」
知る人ぞ知る、というのが魔女の実体だ。事実、東瑛でも『魔女』が実在する事を知るのはほんの一握りの人間だけだ。まずは宮中にいる全ての人間、その外はきっと知る者などいないはずだ。
魔女の存在を――まだ、お伽話だと思っている人達の方が圧倒的に多い。それが真実である。
だが、ジャレッドはまるで魔女が実在する事を知るかのような口調でドルチェへ食って掛かっていた。つまり、彼の言葉を借りるのならば魔女の知識を持っているという事。
「・・・うん、私は魔女だよ」
「つまり師匠って奴も魔女か。へぇ、こうして見ると魔女ってのも案外、魔道士と大差ねぇな。能力の差ってやつか」
「別に、魔女なんて言ったって人間だし。ちょっと魔力容量が規格外で生まれちゃっただけだし」
ジャレッドにじろじろと見られて居心地悪そうにドルチェが目を逸らす。立場が逆転した。
クツクツ、と嗤ったジャレッドが松葉達の方を見る。
「おい、こいつが裏切り者かもしれねーぞ」
「ふざけた事を・・・。お前の話、全然信憑性がねぇな」
「こっちも命掛かってるからな」
ドルチェ様、と嘉保が奥方に近付き有無を言わせない動作で上り階段を示した。
「一度、引き上げましょう。報告する事も出来ましたし、これ以上は・・・」
「ああ、分かってる。おら、とっとと歩けよ、ドルチェ」
「あーあー、分かったよ」
***
こうして引き上げた松葉一行だったが、その後、ジャレッドに会う事は無かった。
というのも、次、彼等が地下牢へ赴いた時には地下牢そのものが『使えない状態』になっていたからだ。
ジャレッド、他数名の収容者達――その、首斬り死体が転がり、血の臭いが充満するその状況に気付くのは、明日。