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「――話は以上だ」
静かにそう言って蝋燭の火を吹き消す不知火蘇芳。これだけ長々と話したのに蝋燭のルールを覚えていた事に驚愕を隠せない。
ともあれ先の話に対する感想を述べよう、とドルチェは一先ず口を開いた。蝋燭の残りを回収する。
「ロマンチックな話だったね。ところで、ノーラ姫様とライアンはどうなったの?」
「知らん。すぐ野垂れ死んだかもしれないな」
「ロマンの欠片も無いよ!?」
「というより、より正確に言うのならば国から出て行った後の二人がどうなったのかは憶測だ。俺ではなく、英雄・エルドレッドのな」
「えぇ!?」
それはつまり、国内にいた間はノンフィクションだが、彼等が出て行った後に関しては英雄の考えた、つまりはフィクションという事になる。
「えぇ・・・」
「落胆するな。だが――そうだな、或いは実は国外には一歩も出る事が出来ず、英雄に討ち取られた可能性も少なからずあるな」
「嫌すぎるよ・・・!」
「最後の1ページは逃亡者達への追悼かもしれん。いや、そちらの方が味があっていい」
「幸せ否定主義なのかな・・・?」
恍惚と騙る蘇芳に寒気すら覚える。彼はハッピーエンド至上主義ではないらしい。というドルチェも報われない話が好きだったりするわけなのだが。
「さて夜も遅い。寝るぞ」
「境界線は消さないからね」
「好きにしろ」
ぱっ、と蘇芳が片手を振ると室内の照明類が全て消えた。話すだけ話してもうさっさと眠るつもりらしい。
かくいうドルチェも背中あたりに人肌のぬくもりを微かに感じながら目を閉じた。