1.

 私――ドルチェは魔女見習いである。
 こういう事を言うと頭が可笑しいと思われるかもしれないが、魔女は確実に存在する。師匠が魔女だから間違い無い。普通の人間は魔法なるものを使って年齢を10も20も偽装したりしないものだ。
 しかし――見方を変えれば、魔道士より少ないコストで大魔法を使う、魔道士の上位種である、と言う人間もいるが。
 だが現在語りたい事とそれはまったくの無関係なのでおいおい話すとしよう。
 まずは私の身の上話を聞いて欲しい。
 私は今こそ魔女見習いという場所に落ち着いてはいるが、7歳まではそうではなかった。ただの人間としてそこそこ普通の暮らしをし、時には泣いたり時には笑ったりと至って普通の生活を送っていた。
 魔女及び魔道士なんて雲の上の存在。争いを好まない、それはそれは普通の女の子だったわけだ。
 だが、ある日それは唐突に終わりを迎える事となる。
 というのも、私が暮らしていた小さな村がある日、盗賊だか山賊だか分からない輩に攻め込まれ、一晩のうちに籠絡してしまったからだ。
 毎日国の為に畑を耕し、家畜を育てていた村人達は腕力こそそこそこあったものの、暴力を生業とする賊共には到底太刀打ち出来なかったのである。両親がどうなったのかは分からないが――いや、多分生きちゃいないだろうが、とにかく必死に私が逃げ込んだ先は村だった。
 それも、子供の目から見ても異常な村。
 森の奥深く。お伽話にでも出て来そうなその深淵に位置する村は、何故か女ばかりが暮らしていたのだ。男の姿もちらほら見えたものの、圧倒的に女性が多い。
 そうして私は知った。この村の名前はリアディ村で、魔女の住処である事を。
 何やかんやあったものの、晴れて魔女見習いの称号を望んでもいないのに与えられた私は、そのまま12年の月日をその村で過ごした。
 ――自分で言うのも何だが怒濤の人生だったと言えよう。

 さて、長話をしてしまったがあと一つだけ。
 私の師匠――カメリアについて話さなければならない。彼女は《玲瓏の魔女》という最も美しいを意する称号を持つ大魔女である。更に言えば未婚で、イライアスという獣人けものびとの従者を一人従えている。
 彼女のお陰で魔女見習いに落ち着いた今もなお、ドタバタ人生を強いられているのだがそれについては敢えて話さないでおこうと思う。私は命が惜しい。
 横暴な彼女のもとで時に魔法を学び、大半をパシリとして過ごした。正直、魔女なんてどうでもよく、人生の初期で災厄とも呼べる不幸を体験したのだから後は良くなるだけだなんて本気で考えていた。
 ――なんて、人生は甘くは無い。
 波瀾万丈に幕を開けた生は、波瀾万丈にしか進みえないのだと、私は知った。
 実に不思議な現象である。宇宙がどうやって始まり、そして果てはどこにあるのかという問題と天秤に掛けられる程に不思議な現象だ。イーブンという言葉はこの世に実は存在しないんじゃないだろうか。
 そうして、私は1秒の半分くらいの時間を宇宙について考察し、やっと現実への帰還を果たす。
 あまり広いとは言えない魔女の家の客室。
 そこで、私に向かって跪く二人組。
 着ている服装からして――東国の人間である事は一目瞭然だ。
 傅く姿が様になっている事から、彼等は誰か偉い人間の従者である事が分かる。
 それでも――それでいてなお、一介の魔女見習いである私にとっては地位も何もかもが上位に位置する人間である事に違いは無いのだが。
 正直に言おう。
 ――誰だこいつら。何でここに。