5.





 なぁなぁ、と声を掛けて来るフレディを無視。だんだん無言になっていくアドレイドすらも無視してシンシアは突き進む。音はだんだんと大きくなって、ほとんどの確信を以てシンシアはその正体がエリオットであると気付いていた。

「なぁ、シンシア・・・引き返そうぜ?」
「だから、駄目だって、放っておいたら危ないでしょ」

 ――エリオットが。
 しかし、シンシアの意図は保護者に伝わらない。危ないのは俺達だ、と見当違いの事を叫んでいる。
 ヴァイオリンの音が、近づいて来る。

「エリオット?」

 部屋の一つから音がすると確認したシンシアは戸の向こう側にそう尋ねた。音が止まる。あれっ、という顔をした大人組と一瞬だけ目が合った。
 一思いに、とシンシアはドアを開ける――

「エリオット!?」

 アドレイドが驚いたような声を上げた。どうしてヴァイオリンの音色、の時点で彼だと思い至らないのか。甚だ疑問である。
 横でフレディが安心したように溜息を吐いた。
 一方のエリオットは「あれ?」、と首を傾げて演奏の手を止める。その様子から、大分酔いが醒めている事が伺えた。

「やぁ、君達・・・ん?」
「どうしたんだよ、エリオット・・・」
「僕はサイラス達と一緒じゃなかったかな?彼等はどこへ行ったんだい?」

 それはこっちが聞きたい。
 そう言いたいのを堪え、シンシアは引き攣った笑みを浮かべた。酔っている間の出来事はほとんど覚えていないようで、どうしてサイラスとハーヴィーだけ別行動を取っていたのかは分からず終いである。