重く、心臓を殴りつけるかのよう

「おい、真白」
「・・・何か」

 心底迷惑そうな顔をして真白が振り返る。彼女は最近《道化師の音楽団》に入団した《ローレライ》の少女である。ディラスの連れ、という謎の称号をも手に引っ提げている。
 そんな彼女はディラスと随分似ており、そのせいかアルフレッドはどうも苦手意識を持たれているようだった。
 だからこそ、こうやって話し掛けているのだがまるで懐いてくれる気配が無い。それどころか余計に距離を置かれているような気さえするのは何故だろう。

「お前、今からディラスの所へ行くか?」
「別に行かないけれど」
「えー・・・そう」

 ――会話終了。
 そもそも話が続かない。飛ばしたボールを返そうと思ったらその相手がいないような感覚。彼女に会話する気は無いのだろう、たぶん。

「ねぇ、アルフレッド」

 ――が、そんな彼にも奇跡が起きた。
 恐らく初めて、真白の方から話題を振ってきたのである。

「おう、どうした?」
「マゼンダ、どこへ行ったか知らない?」
「マゼンダ?あいつなら食堂にでもいるんじゃないのか?腹減ったって言ってたし」
「そう、ありがとう」
「用事か?」
「イリス達から伝言貰った」

 ――律儀に聞いてやる必要は無いのに。
 そう思ったが、あの双子とは仲良くやっているようで安心した。

「何にやにや嗤ってるの?怖いから止めてよ」

 自分の顔が引き攣る感覚を久しぶりに味わった。