「はぁっ・・・はぁっ・・・!」
荒い息を吐きながら、宮野春暁は相手を見やった。すでにこちらの身体は限界。彼も――山背修もそうだろう。息は切れ、全身ぼろぼろだ。あと少し、あと少しで倒せる。
「くそっ!いい加減負けろよ!!」
「てめーがなっ!」
地を蹴り、修との距離を詰める。はっ、と我に返った彼が慌てて両手を顔の前でクロスさせ防御姿勢を取る。よって、春暁が渾身の力を込めて出した右足の蹴りはほとんどが吸収されてしまい、大したダメージにはならなかった。
カウンターと言わんばかりに修の右拳が伸びる。
それを真横に倒れ込んで躱し、直ぐさま起き上がった。すでに彼の左足が引かれ、いつでも殺人的な蹴りで相手を殺傷する準備が整っている。
「くっ・・・!」
低い姿勢のままのローキック。足下を掬われた修が体勢を崩す――
「この、ヤロー!!」
よろけた彼にトドメを刺すべく、左拳を振り上げる。すかさず修も殴り合いに持ち込むべく構えるが、その不安定な体勢から繰り出される攻撃など怖く無い。ここで畳み掛ける。
変な体勢から繰り出されたパンチが左胸の辺りに炸裂。
「へっ、何のつもりなんだ、よ・・・っ!?」
「はは、油断したな宮野!」
身体に力が入らなくなる。何だ、と見下ろせば先程修の拳がぶつかってきた左胸辺りからナイフの柄が飛び出ていた。
――彼は、この状況でまだ武器を隠し持っていたのだ!
それを知覚した瞬間、視界が真っ赤に染まった。
***
「あぁああああ!くそっ、また負けた!!」
「ザマァ見ろ!」
畜生、そう叫んで春暁はコントローラーを叩き付ける。目の前に表示されているのはゲームオーバーの赤い文字。
戦闘ゲームに興じていたのだが、これで山背修に殺されるのはかれこれ7回目だ。
「次は俺が勝つぜ!」
「いや、どーせまた俺が勝つだろ」
そうして、本日8回目の対戦が始まる。
たぶんきっと、春暁は勝つまで止めないだろう。